囲炉裏ですが、飛騨方言ではひなたともいいます。
勿論、飛騨では囲炉裏という事もありましょう。
さて、四角四面のひなたに座る序列ですが、横座という言葉は一部の国語辞典にも掲載されており、共通語と
いえなくもありませんが、この言葉は多くの方言サイトで紹介されており、私としても是非、飛騨方言として紹介したいところです。
横座とは言うまでも無く、家父長がすわる王の座とも呼ぶべき、絶対権威の象徴の場所で、
仏間、あるいは、デイという客間に近いところの座です。囲炉裏が各家庭にはあり、ひとつの辺が横座ですが、
何はともあれ、仏間に近いところの囲炉裏の一辺が横座でしょう。
家のつくりは大方はパターンがあって、南向きの家の
南側中央にドウジという土間があり、その奥に囲炉裏の間があり、左側が横座です。囲炉裏の間の左には仏間、デイ
があるわけです。
そして横座の左隣、つまりは玄関からは一番奥側がかか座で家父長の夫人が座ります。かか座の奥には
台所、食料庫があるというわけです。かか座の更に左、つまりは横座の真正面は、しも座ともあるいは嫁座
ともいい、嫁いだお嫁さんが座ります。そして横座の右隣、つまりは玄関に一番近い席は客座ともいい、
また家父長に次にえらい人が座るという事で、あに座ともいいます。
尚、王様の座が何故、縦座でなくて横座なのか、下の図で一目瞭然です。
北
+------+-----------------------------+---------------+
: : だいどこ(=台所) : どうじ
: 仏 : +---------------+
: 間 : かか座 :
: : +---------+ :
: : 横座 : 火なた : 嫁座、しも座 :
+------+ :(=囲炉裏): :
: : +---------+ :
: で : 兄座 、客座 :
: い : +-------------------+ :
: : : どま(=玄関) : 馬屋 :
+------+--------+ 南 +----------------+
子供たちは適当にあいている場所に座ればよいのですが、長男は弟や妹に威厳を見せるためにちゃっかりと
横座の祖父や、あに座の父に相席させてもらいます。小さい子はやはり、嫁座の母親の席か、あるいは祖母の
かか座の席に相席します。
勿論、子供がどこに座るかは、無礼講で、思いっきり甘えて、横座の祖父とかか座の祖母の間にすわるも良し。
そこへ、突然来客、"おおっ、こりゃこりゃ村長さん、どうぞあがって、あんきにしてくださいよ。"
といって、兄座の
父がささっと嫁座のほうに移動し、客座に座るよう、うながします。
勿論、横座に座る祖父はそこに座る事が家父長たる絶対権威の象徴ですから、微動だにしません。
まあ、勿論、たいしたお客で無い場合は、あしらいも淡白なもので、
"おう、わりぃか(=お前か)、あがれよ。"
といって、父は少しばかり横座のほうに移動し、たいしたお客でない方に、兄座と嫁座の間にすわるように促します。
暗に、私の社会的地位は客より高いのだといわんばかりの父の態度です。勿論、父が、どうそどうぞ、と自らが嫁座の
方に移動し、お客さんに横座に近いほうの兄座に座るよう促しても、お客さんは、遠慮して、
"あーれ、もったいねえで、ええさ、あに、そんなごとしてくれんでも、
おりゃ下座のほうにすわらしてもらったほうがあんきやで。"
という人もありましょう。
全て、パワーポリティックスの世界です。座る場所を間違えてしまうと、その家でも、村でもなんともはや
ギクシャクした雰囲気になってしまい、常に家族構成員の中でも、村人の間でも序列を頭にたたき込んで
いないといけないのです。日本全国どこも同じなんだろうなあと思いつつ、実は私の村だけなのかもしれませんが。