大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
すうなる(=すっぱくなる) |
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私:今夜は音韻の話にしよう。共通語「すっぱくなる」は飛騨方言で音韻には「スウナル」。表記としては「酸うなる」だろうね。 君:ほほほ、「酢うなる」ではないのよね。 私:おい、早速に突っ込みか。僕とて、いや僕だからこそ日本語を隅から隅まで知っているわけではない。辞書にあたってみたよ。形ク「すし酸」。文語的な表現になろうが広辞苑にも形ク「すい酸」の記載がある事を確かめた。死語に近いだろう。日本人なら大半のお方が「すっぱい」とおっしゃるだろう。いつの時代からは見当は付くよね。 君:その質問は答えを教えているも同然、つまりは近世語、江戸っ子の言葉でしょ。 私:うん。とてもいい感をしている。その通り。順番に話を進めよう。まずは、形ク「すし酸」の文例は新撰字鏡・昌泰年間(898‐901)の漢和辞書、今昔、狂言、書言字考(ショゲンジコウ)・江戸中期、があるので中世から近世の言葉。現代語は「すっぱい」だから、「すっぱい」は江戸語、近代語、現代語という事がわかる。講談社・江戸語大辞典には「すっぱい酸映」の記載がある。東京堂出版・上方語辞典には記載がない。 君:あら、ほほほ、語源が丸わかりじゃないの。 私:そうなんだよ。「すっぱい」は形ク「すし酸」と形ク「はゆし映」の複合形容詞だ。 君:ほほほ、先行形容詞が連用形ではなく、語幹「語基」という事ね。 私:そう。甘くもあり酸っぱくもある事を「あまずっぱい」というが、君との思い出だな。同じ文法だ。「あまくすっぱい」とは言わない。形ク語幹「す酸」+形ク「はゆし映」で「すはゆし」、つまりは形ク語幹「す酸」は接頭語なんだ。 君:「すはゆし」が江戸語では「すはゆい」になり、促音便で「すっぱい」になったというからくりだったのね。ほほほ 私:そうなんだよ。「ぱい」が接尾語になった。途端に形ク「しょっぱい塩映」が出来た。あるいは逆。さて飛騨方言と言えば畿内文法だから形ク連用形はウ音便、つまりは「すくなる」ではなく、「すうなる」だ。飛騨方言では、例えば三拍形クの例は「たこうなる高成」「ひくうなる低成」「せもうなる狭成」、等々。 君:そうよね。ところで音韻の話とはどういう事かしら。飛騨方言では「すっぽうなる」とは言わないわよね。 私:本稿のはじめにお書きした通りだが、音韻としては連母音、つまりは「す・う・なる」であり、長母音「スーナル」にはならないのです、というお話だ。 君:なるほどね。それにアクセントの問題もあるでしょ 私:その通り。「すうなる」は明らかに頭高。中高にはならないね。「濃い」の例でも「コウナル」の頭高アクセントかつ連母音というのが飛騨方言の発音だよね。 君:二拍形容詞ね。数は限定、いい(良)、こい(濃)、すい(酸)、ない(無)、よい(良)の五つだけじゃないの。 私:そうだね。飛騨方言ではすべて同じ文法・音韻だ。それぞれ、ようなる、こうなる、すうなる、のうなる、だね。 君:確かにそうよね。 私:「すっぱい」はこれくらいにしておいて、ところで「しろい」と「しろっぽい」の違いは何? 君:「しろい」は純白の意味で、「しろっぽい」は純白ではない、という意味ね。 私:うん。それ位は小学生でも知っている。語源は? 君:ほほほ、「ぱい」の語源に続いて「ぽい」の語源問題ね。してやられたわ。想定外の突っ込みね。うーん、「すはゆし->すっぱい」だから「しろ@ほ@し->しろっぽい」なのよね。・・・わかったわ。「しろおほし白多」 私:そうなんだよ。「ぽい」の語源は「多い」。江戸語だ。しろおほし->しろおほい->しろうぽい->しろっぽい。まずは、こうやって「ぽい」という接尾語が出来た。これを例えば動詞に転成すると、どんな動詞が思い浮かぶかな。 君:ほほほ、それは簡単に解答出来るわよ。忘れっぽい、飽きっぽい、けれど理屈っぽいあなた。つまりは大西左七君の事ね。ほほほ |
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