大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
たばる(食ばる、貯る)・飛騨方言の同音衝突 |
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国語学の下位分類・方言学ではまた一種、独自の学術語の世界が広がります。同音衝突とは、同音異義語、と同じ意味です。さらには方言学では、同音異義語の会話による意味の取り違えを嫌って一方の言葉のみが多用され、つまりは生き残り、もう一方の言葉はあまり使われなくなり、つまりは消滅してしまう現象などにも使われますので、同音衝突は同音異義語より狭義とも言い換えることができます。 昨日は飛騨高山グリーンホテル様が2018年からのキャンペーンとして、飛騨のたばる箱・たばるチケット、をお始めになった事を知り、飛騨高山グリーンホテル・飛騨高山で春を探しに出かけようキャンペーン、サイトの右上アイコンに、たばるとは「とっておきにする」という意味です、との記載を発見、思わずにんまり・ふふふ、同音衝突していない同音異義語でしょ、と瞬時に見抜いた事をお書きしましょう。 若しかして、高山グリーホテルのサイト情報編集者様が飛騨方言の話者であり達人であり、わざと、たばる、の同音衝突を狙って、このように命名なさったとすれば筆者も脱帽です。つまりは私の解釈はこうです。 ★たばる箱 貯る箱 大切に保存しておく箱の意味 ★たばるチケット 食べる事のできるチケット、つまりは割引のミールクーポンの意味。 さて、古語辞典にある言葉としては、たくわえる、という意味では三つばかりが挙げられましょう。たくはふ(貯・畜)、たばふ、たむ(溜)、です。「たばふ」は(貯ふ、他ハ四(他動詞ハ行四段)、惜しんで保存する蓄える)、昭和三十年代の飛騨高山方言語彙約一万を集めた土田辞書に、たばう・たばる、の二つの語彙で記載があり、明治中期の辞書・言海には、たばふ(旧仮名)がありますから明治の東京語、さらには日葡辞書では tabai,o,ta たばいおうた よく蓄えて保存する、があり安土時代の畿内方言であった事も明らかです。 一方、食べる、という言葉ですが、古語辞典では勿論、食ぶ(たぶ、他バ下二、枕草子、狂言)です。尊敬語の四段動詞・賜ぶ、の謙譲語から、飲む・食ふの謙譲語または丁寧語になった言葉であり、いただきます・飲みます・食べます、の意味であり、食べる、という言葉が出来たのは安土時代のようで日葡辞書に tabe,uru,eta 食べ、ぶる、べた、の記載がありました。また、言海には、たぶ、の記載もありました。更には飛騨方言は下一動詞の五段活用で可能動詞とする文法があり、食べられる、とも言いますが、たばる、ともいうのです。 以上の知識から明らかな事、つまりはグリーンホテルの、たばる箱、は貯めておく箱、の意味であり、たばるチケット、このチケットで美味しいものが食べられますわよ、という意味で、食べられるチケットなのです。 同音異義語の言葉遊びとしては華麗というしかなのですが、実は飛騨方言ネイティブならだれでも知っている事ですが、実際の会話で意味の取り違えが起きる事はありません。つまりは二つの動詞は、ふふふ、アクセントが違うのです。飛騨方言においては、たばる箱、は尾高で、たばる〇●●、ですし、たばるチケット、は中高で、たばる〇●〇です。もっとも、私のように意識して飛騨方言のアクセントについて研究する人間しか気にならない事という事で、あるいは飛騨地方の現代人、特に若者、では飛騨方言が廃れつつあり、そんな事はどうでもよい事、たばる、というのはチョッピリ変な言葉で、飛騨方言っぽくていいな、というような言語感覚ではないかと推察します。 結論ですが、以上の議論がピンとこない方には、たばる、は同音異義語ではなく、同音衝突により、しかも二つの動詞のアクセントを無視して同音同意語になってしまっている、というメタ言語的な意味すらあるので飛騨方言検定としては難問です。しゃみしゃっきり |
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