大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
オ段長音の合音からタ行拗音の2への変化 |
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私:今日は少し長い表題にしてみた。これからの私の文章のスタイルになりそうだ。 君:ほほほ、意図が丸見えだわよ。具体的表現を避けより抽象的な表現に。 私:いや、そうでは無い。より総合的に、俯瞰的に take a comprehensive, panoramic view of my opinion という訳だ。 君:何を気取って国会答弁みたいな書き方をするのよ。いいから具体例でお書きなさいよ。 私:お答えします。「ごちそう」を飛騨方言では「ごっつぉ」と言います。 君:ほら、そのほうが余程、判り易いじゃないの。 私:でも「ごちそう」の「そう」の事をオ段長音の合音と言い、「つぉ」の事をタ行拗音2と言うのであります。 君:ただただ難しい言葉を並べる事は学術的とは言いません。難しい内容を国民の皆様に具体的に判り易く説明するのがサイト運営者の義務でありませんか。 私:そうだね。国会ごっこはこれくらいにしておいて、いつもの会話の調子で行こう。 君:仕事柄、飛騨方言で議論は出来ないわよね。 私:その通り。つまりは当サイトのポリシーは大人のための方言学だ。つまりは飛騨方言の全てを学術語、国語学・言語学の用語で正確に記載する事。 君:今日の話題は昨日の原稿、中世の音韻(オ段長音の開合の区別)の続きね。 私:その通り。今の若い人は言わないだろうが、飛騨方言では「とうさん」のかわりに「トッツァマ」とか「ツァマ」と言うし、「ツォッツァマ」と言う事もある。 君:飛騨方言ってつまりは「ツァ・ツィ・ツゥ・ツェ・ツォ」の音韻があるのよね。 私:その通り。だから「ツゥラストストラはかく語りき Also Sprach Zarathustra」とか「ツェツェ蝿 tsetse fly」などの言葉を話す事は飛騨人にとって容易だろう。 君:次いでだから一言で説明してね。 私:前者はドイツの哲学者ニーチェの代表作品、後者はWHOの敵でアフリカの風土病トリパノソーマ感染症を媒介する蝿。 君:脱線したから方言学に戻してね。 私:いやあ、呑む音は撥音、詰まる音は促音、きゃきゅきょは拗音だが、あれれっ「つぁ・・」って何と言う名前なんだろうと思ってしまった。「タ行拗音2」が答えだ。素敵なネットコンテンツを発見。もうひとつの五十音図 君:「チャ・チュ・チョ」が「タ行拗音1」という訳ね。 私:その通り。従って理論的には以下の表が考えられる。 「クャ・クュ・クョ」は「カ行拗音2」 「スャ・スュ・スョ」は「サ行拗音2」 「ヌャ・ヌュ・ヌョ」は「ナ行拗音2」 「フャ・フュ・フョ」は「ハ行拗音2」 「ムャ・ムュ・ムョ」は「マ行拗音2」 「ルャ・ルュ・ルョ」は「ラ行拗音2」 君:。あまり日本語の音韻ではなさそうね。 私:それはとても良い質問だ。そこで小学館日本方言大辞典全三巻・語数十万を調べた。「つぁ」が語頭に来る音韻は飛騨方言「つぁま」、栃木方言「つぁり(地面が凍った状態)」と沖縄方言の数個の語彙、以上だけだった。つまりは日本語の音韻としては極めて珍しい音韻である事が判明した。 君:あら、そうなの。よかったわね。気分がよくなっちゃったのね。 私:いいなんてもんじゃない。上機嫌だ。いつの時代に飛騨方言の音韻にタ行拗音2が参入したのか定かではないが、古い音韻なのだろう。 君:二つはっきりしている事があるわよ。ヒントは平安の音韻変化。 私:二つか。なるほどね。つまりが日本語に拗音、つまりは一般的には拗音1だが、拗音1が入って来たのは平安時代に大量の漢語が入って来た事による。つまりは平安時代の日本人にとって拗音は外来語の音韻であり、つまりは拗音1は古代の音韻、つまりは★和語の音韻では無いという事がひとつ。もうひとつはまずは平安時代の畿内で拗音1が誕生して、それが飛騨に伝搬して拗音2になったであろうから、飛騨方言の拗音2は、★おそらくは中世・近世の音韻、拗音1より後代に違いない。そして現代では拗音2「つぁま」は消滅してしまったという事だ。 君:そうなのよ。拗音2はおそらくは戦前・戦後辺りまでは聞かれたのでしょうけどね。現代の飛騨方言には拗音1しか存在しないのだわ。 私:拗音はイ段の現象で拗音と言えば拗音1(つまりイ段)を示すのだけど。ウ段の拗音を拗音2と定義するのだから、エ段の拗音、オ段の拗音というものが存在しないだろうか。 君:世界の言語にはあるのでしょうね。 私:それに、そもそもがア段の拗音だってあるでしょ。「タャ・タュ・タョ」。これを拗音0とは言わないのかな。 君:言わないでしょ。第一に、そのような音韻が日本語には存在しないわよ。 私:確かに。「タャ・タュ・タョ」は奇異な表記だ。だがしかし「ティャ・テュ・テョ」なら有りじゃないかな。「ユー・テューバ」とか。 君:確かに楽器「テューバ」の表記はありよ。凄いわね、あなたは日本人で初めてタ行拗音0なる言葉を発案したいのね。 私:いやあ、それほどでも。 君:ほほほ、お馬鹿さんね。『日本語話し言葉コーパス』の分節音ラベリングを御覧なさいな。ちゃんと記載してあるわよ。「周辺的モーラ 」というのよ。国研の皆様を侮っちゃだめよ。 私:つまりはタ行拗音0などと言わずとも、その他の音韻という訳か。やれやれ。 君:「つぁま」で思い出したけれど、若い夫婦のころの事。子供相手にテレビアニメ「お坊ちゃま君」の売り、「ちゃま語」をやって遊ばなかった? 私:遊んだなんてものじゃない。我が家でも朝から晩までやっていた。ああいう言葉遊びは国語教育に役立つと思う。「ともだちんこ」「いいなけつ」「ぜっこうもん」のような下ネタも多かったけどね。 君:「茶魔語」をキーワードにネット情報が得られるわね 私:放送は 1989年1月14日 - 1992年9月26日だった。影響を受けたのは長女、六歳から九歳だったか。妹は乳児で関係なかった。 君:いくら親が正しい日本語だけを覚えさせようと思っても無駄なのよね。ほほほ |
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