大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

こっともない(みっともない)

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私:実は、こっともない、は飛騨の俚言だ。隣県・富山方言に同意の「こんとくない・こんとむない」があるので、関係があるのは明らか。
君:語源を考えるのは良しとして、「み」から「こ」への音韻変化かも、と考えるのは無理よね。
私:当然だね。有り得ない話だ。それ以前の語源学の基礎知識として、みっともない、の語源は、形クみたうもなし。角川古語大辞典には記載がある。みたもなし、みたむなし、とも言う。蒙求抄、つまり江戸初期。結城氏新法度、これは1556年(弘治2)。
君:どうやら、飛騨俚言こっともない、の語源は近世語みたうもなし、で決まりとおっしゃりたいのね。
私:勿論だよ。問題はどのような音韻変化があったのか、という一点だけだ。みっともない、から、こっともない、が生まれたと考えると話はスッキリする。そして、飛騨の、こっともない、が富山へ伝搬したという事のようだ。実は小学館日本方言大辞典は、こっともない、が見出しであり、こんともない、は其の下位分類。
君:ほほほ、左七君は答えを知っているのでしょ。お忙しい読者の皆様の為に結論をサッサとお披露目しなさいよ。
私:うん。同じく小学館(標準語引き)日本方言辞典に答えを見いだした。
君:標準語引きとは、つまりは「みっともない」の意味の全国の方言の記載があった、という意味ね。
私:その通り。実際には見出しは「見苦しい」だったが、山形県米沢市に「こみともない」があった。つまりは飛騨俚言こっともない、の語源は、接頭語こ+みっともない、つまりは、こみっともない。これから一モーラ「み」が脱落して、こっともない、に音韻変化したのだと思う。決して「み」が「こ」に直接的に変化したわけではないんだ。
君:なるほど。ひとつ法則が見つかると、後は続々と他の言葉の語源発見につながるわね。
私:その通り。先ほどだが、土田吉左衛門・飛騨のことば、を調査した。形クこんびきさい・こんびきない(小さい)の語源も簡単、接頭語こ+ちんびくさい(ちびくさい)、であろう事が容易に推察される。
君:飛騨方言の語源探しに山形方言が役立つとは思いもよらなかったわね。ほほほ
私:その通り。当サイトでは繰り返し述べているが、ソシュール学で言うところの共時性。つまりは、飛騨方言と山形方言が令和という現代を共有している、という意味だ。今日も方言の神様と握手が出来た事に感謝している。
君:よかったわ。ところでソシュール学の通時性とは、飛騨方言の歴史を考えるに、接頭語「こ」が「みたうもなし」という近世語に接続して、こみっともない、になり、これが、こっともない、に変化してきたのでは、という考えね。
私:何かの言葉が変化して現代の言葉になった事だけは確かだ。ソシュール学の通時性・共時性を敷衍すると、全ての言葉には通時性が必ず存在するが、それでも共時性があるとは限らない。たまたま山形方言と飛騨方言に共時性があった。物事を考え詰めると大抵の言葉の語源は推定できるので諦めないことが重要。但し、和語は不可。
君:つまりは、近世語から現代語への変化あたりならば語源探索は比較的容易という事ね。ほほほ

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