大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

しょうばけ(=形見分け)

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私:形見分けの事を飛騨方言では、しょうばけ、という。さあ、今夜はこの飛騨方言の語源を考えよう。答えは既に問題に書かれている。
君:うーん、難しいわ。ヒントをお願いね。
私:答えを教えたも同然だが、ヒントは音韻。
君:なるほど、共通の音韻、つまり、け、の音韻ね。つまりは、しょうばけ、の元の音韻は、しょうぶわけ、であると仰りたいのよね。
私:その通り。飛騨方言では、かたみ形見、が、しょうぶ、に変化したというわけだ。ところが、ここから以降はかなりハードルが高い。ヒントを小出しにすればなんとかなるかもね。
君:何よ、その言い方。やる気をなくしちゃうわ。
私:いやあ、そう言われては立つ瀬がない。ヒントはBMの子音交替だ。
君:それは実に簡単ね。更に、しょうぶわけ、の元の音韻は、しょうむわけ、だったという事なんでしょ。
私:その通り。最終的には古語に到達しないと、方言の語源の謎解きゲームは終了した事にならないが、実は、もう一回の音韻変化、という事でヒントは長音化。
君:あら、あなたって今夜は随分、優しいのね。つまりは、更に、しょうむ、の元の音韻は、しょむ、という事ね。
私:その通り。ここでやっと古語の世界になる。飛騨方言ショーバケ、の語源は、所務分けだ。
君:現代口語では庶務・処務あたりが一般的だけれど。
私:しょむ所務は続日本記に出てくるので古代語である事は間違いがないが、和語とはいいがたいかもね。当時の外来語じゃないのかな。意味は、つとめ・やくめ・仕事・所役。これが中世に意味が転ずる。つまりは職務に伴う得分を示すようになった。荘園田地を管理して収益する事。また年貢を収納する事の意味にも使われるようになり、更にこれに関連して不動産物件を管理する行政的処置も含めて用いられるようになった。所務は、やがて荘務の文字に取って代わられる。
君:なるほど、荘務というのは法律に基づいた土地管理権という意味だから、荘務分け、は土地財産の遺産相続並びに分割という意味になったのね。
私:その通り。さあ、そして、ここからが方言学だ。方言と言えば民衆の言葉、今も昔だが、庶民が荘園を所有していただろうか。
君:なるほど、それはないわね。でも、親が死んだとき、なけなしの遺産を子供が相続・分割する時に、荘務分け、と言ってもいけなくはないわね。
私:そう、茶目っ気というのですよ。そして、まだまだ方言学は続くが、民衆が、わけもわからず、しょうむわけ、と言っている間に、いつのまにか、しょうぶわけ・しょうばけ、となってしまったというのが飛騨方言の歴史。所務分けは全国各地の方言になっていて、あれこれ、千変万化に音韻変化している。
君:語りだせばきりがないのね。それにしても、たかが方言・されど方言というわけね。必ず語源は見つかるというわけね。ほほほ

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