大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨方言に於ける助動詞特別活用

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私:自分では納得しながら書いている当サイトの記事だが、第三者には判り辛い文章なのでは、といつも危惧して、いきおい、このような対話形式を選んでいる。
君:それでも判り辛いわよ。今日は何を言いたい訳かしら。
私:ここでのテーマは飛騨方言の文法、然も助動詞に限って、という事。これ、つまりは飛騨方言における助動詞の挙動を一言で表すとどうなるのか、という命題なんだ。
君:ははあ、わかったわ。飛騨方言の文法といっても中等文法、つまりは橋本文法とほとんど同じだけれど、わずかに助動詞特別活用においてのみ、特殊性がみられる、という事を言いたいのね。
私:その通り。助動詞と言えば沢山あるし、そのひとつひとつに違った活用形があるし(ラ変型、ク活用型、ナリ活用型、サ変型、ナ変型、下二段型、四段型、形容詞型、そして特殊型、以上9種類)、また前項品詞の活用形が何か(体言、連体形、終止形、助詞「の・が・て・から」、未然形、連用形、已然形、以上7種類)、これをきちんと覚えるのは大変だが、大原則というものがある。
君:パターンがある、という事ね。
私:その通り。助動詞には最も大切な役割として機能というものがある。これまた書き出せば切りがない。指定、比況・推定・伝聞、未来・推量・意志、完了・過去、打消し、希望、受身・可能・自発、使役、尊敬、丁寧・謙譲、こんなところか。パターンというのは記号論理で説明が可能、つまりは、順接確定は体言・連体形・連用形に接続で決まり、その一方、逆接仮定も逆接確定も共に未然形に接続で決まり。
君:活用形はどうなの。
私:記号論理的にとらえるのではなく、歴史的に捉えるべきかな。日本語の原形ともいうべき奈良時代の挙動は、体言+(指定)「なり・たり」、という素朴極まりないものから始まり、未来・推量・意志の「む・らむ・けむ・まし」などが代表で、これらの助動詞の活用の型が特別活用。特殊な活用と言ってもいい。更に問題なのは「らむ」が終止形に接続で「まし」が未然形に接続。実はこれが飛騨方言に現代も生きている。理由はひとつだろう。律令制の時代、飛騨は常に延べ何万人もの飛騨工という使役を飛騨の各村々から送り出した事により、この畿内文法が直接もたらされたから。接続が連用か未然かという問題は、その言葉の意味が順接か逆接かという問題と捉える事ができる。これが飛騨方言は意味が分かりづらいと言われる原因だろうね。
君:奈良・平安以降の助動詞の歴史を一言でお願いね。
私:それこそ今回のテーマかも。大雑把に言うと、特殊型は減り、下二・四段・サ変活用が多くを占め、これまた接続は未然形ないし連用形が多くを占め、何の事はない、複合動詞の出来損ないが助動詞と思えば当たらずと言えども遠からず、そして現代の口語文法に至る。あれこれ異論はあろうが、ひと言で言えば以上だ。まずは国語の歴史を大雑把に知る事が方言理解の上では肝要。
君:たった一言で更に言い換えれば、方言というのは古い言葉が残っている言語、という事ね。ほほほ

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