飛騨方言の過去の尊敬表現の一種に、未然形に"た"を足す言い回しがあります。
元となる動詞の未然形+"さった"の言い方が訛った可能性がありえます。
四段動詞 : 未然形に "た" を付加
行かた 泳がた 押さた 打たた 思わた 飛ばた
飲また 乗らた 有らた 死なた 蹴らた
上一段動詞 : 未然形に "た" を付加
着なた 似なた 干なた 見なた 射なた
起きなた 過ぎなた 落ちなた 恥じなた 強いなた
滅びなた 悔いなた 懲りなた
下一段動詞 : 未然形に "た" を付加
得なた 受けなた 上げなた 寄せなた 交ぜなた
捨てなた 出なた 尋ねなた 経なた 考えなた
調べなた 止めなた 超えなた 晴れなた 植えなた
カ変動詞 : 未然形に "た" を付加
き(来)なた
サ変動詞・する : 未然形に "た" を付加
せなた しなた
サ変動詞・講ずる : 未然形に "た" を付加
講じなた
上記のすべての活用で、 "た" を "さった" に置換可能です。
ところが、すべての四段動詞で "た" を "さる" に置換できません。そうしますと明らかに不自然です。
むしろすべての四段動詞では"た" を "っさる" に置換可能で、現在形尊敬表現になります。
上記の四段動詞以外の動詞では、 "た" を "さる" に置換可能で、現在形になります。
四段動詞以外においては、上記のほとんどの動詞で、 "た" を "っさる" に置換可能で、現在形尊敬表現になります。
ただし、恥じなさる、強いなさる、滅びなさる、 悔いなさる、懲りなさる、 講じなさる、の語が
"っさる" に置換すると不自然のようです。