大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨俚言第二人称代名詞・わりぃ、成立に関する佐七仮説

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飛騨方言では第一人称を、おりぃ、といいますが、なぜオレではなくオリなのか、 おそらくは格助詞にまつわる短呼化がその理由であると筆者は考えます。 本稿では第二人称代名詞・わりぃ、成立に関する筆者の仮説をご披露します。 おりぃ・わりぃ、とも同じ理屈です、というようなつまらない仮説ではありません。

さて仮説のご披露の前に飛騨方言では何故、"あなた"のことを"われ・我"というのか という疑問については既に別稿・飛騨方言における第二人称代名詞・わりぃ、の使用制限(2)文学史的考察 に論述しました。 もう一点、大変に重要な点ですが、飛騨方言では第一人称を"おりぃ"とも言うし"おら"とも言うが、 第二人称では"わりぃ"とは言うが"わら"とは決して言わない、という現象です。 例文ですが
おりゃおいた (あるいは・・ おらおいた)。わりゃせるか。
(私は止めます。貴方はしますか。)
とは言いますが、決して、わら〜、とは言いません。次の例文ですが
おりぃんちゃここや (あるいは・・ おらんちゃここや)。わりぃんちゃどこや。
(私の家はここです。貴方の家はどこですか。)
とは言いますが、決して、わらんち、とは言いません。次の例文ですが
おらんまりゃええぞ。わりぃのまわりゃどうや。
(私のまわりはいいですよ。貴方の周囲はどうですか。)
とは言いますが、決して、わらんまり、とは言いません。

つまりは、第二人称代名詞に何故、わりぃ、というのかと言う事が問題なのでは ありません。冒頭の、おりぃ、の成立理論から推して知るべしでしょう。 問題は、なぜ決して、わら、と言わないかという事なのです。 そして結論ですが、理由はたったひとつ、一般名詞・わら(藁)、との混同を嫌って 飛騨方言では成立しなかったのでしょう。あるいは言い換えますと、 一般名詞・おら、ということばが無い為に、飛騨方言の第一人称では、おら、が成立してしまい、 おりぃ・おら、の二本立てになってしまったと考えられます。

飛騨は確かに山国、その昔は林業が主要産業であったのですが、豊葦原の瑞穂の国、 稲作の副産物・藁の仕事が大切だったわけです。人口の大半は農業、家内製品の多くが 自前の藁材料の物品です。 日常生活の重要単語と人称代名詞が同音異義語になって会話がスムーズに行くわけが ありません。折角ですので例題を・・・
わらってのは、抱いてみると結構ぬくといなあ。
さて、どんな意味でしょう。藁というものは保湿、保温に優れ、靴の中にいれたものを飛騨方言で "すくべ"といいますが、もう意味はお分かりですね。と言う事で実はご夫婦の会話ではありません、 そのような場合は、"わりってのは、・・・"になるのでした。ふふふ、しゃみしゃっきり。

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