大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
はつける |
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私:この数日来、考え方がステレオタイプというか、しばらく飛騨方言の接頭語について記載していきたい。 君:要は動詞のモダリティの分類で、合成動詞の下位分類たる複合動詞の前項動詞が接頭語に化けている、という、たったこれだけのことよね。 私:早い話がその通り。しかも前項動詞たるや二拍動詞に限られ、江戸語では連用形が促音便で飛騨方言では最初の一音節、このような音韻対応があるという事。 君:どの成書にも書かれていないのよね。 私:浅学菲才の身だが、手元の成書のどこにも書かれていない。本邦初公開の可能性がある。余談にはなるが飛騨方言に自サ五(自動詞サ行五段)「げばす(失敗する)」がある。語源は複合動詞だ。前項部分が「げ」、しかも他ラ五(他動詞ラ行五段)「かける」連用形の音韻変化、これに気づくのに十年以上かかった。 君:表題だけど、共通語では「はりつける」よね。 私:その通り。江戸語では「はっつける」。講談社「江戸語大辞典」を紹介しよう。「はっつけ磔(忌々しい事、はっつけあまの事)」「はっつけあま磔女(女を罵倒する言葉)」「はっつけじじい磔爺々(老爺の罵倒語)」「はっつけしょうりょう磔精霊(人を罵倒)」「はっつけば磔場(磔刑場)」「はっつけやろう磔野郎(男の罵倒語)」 君:簡単にひと言、卑罵(ひば)表現ね。江戸っ子らしいわ。ほほほ 私:まあね。これが飛騨方言では他ラ五「はつける張付」というわけだ。 君:共通語・標準語としては、やはり、「はりつける」ね。「はっつける」は関東方言、つまりは関東訛りという扱いだと思うわ。 私:そう。いい感してるね。小学館・日本方言大辞典をみたら、やはり関東で促音便、西日本では語頭は「はり」、そして「つける」の部分は各種の音韻変化がみられる。書き出したら切りがない。割愛。 君:なるほどね。自他対に関してはどうかしら。 私:いやあ、鋭い質問だね。実は、共通語は「はりつく・はりつける」の自他対、というか自動詞五段・他動詞下一という日本語文法の造語機能が働き、近世以降の動詞である事が丸わかりだが、小学館・日本方言大辞典には自動詞の記載が一切、無い。これも驚きだ。つまりは成書のどこにも書かれていなくて驚いている。理論的には飛騨方言では自カ五(自動詞カ行五段)「はつく」だが、方言資料のどこにもそんな記載は無い。 君:共通語で語頭が「はり」の他の複合動詞はどうだったかしら。 私:よくぞ聞いてくださった。ヒットゼロだ。「張り倒す」の俗語表現で「はったおす」がありそうだが、実は江戸語大辞典には記載無し。勿論、飛騨方言には「はたおす」という動詞は無い。張り上げる、張り込む、等々、動詞はあるが、共通語・飛騨方言対で「はりつける・はつける」以外の動詞は無いようだね。 君:なるほどね。共通語「やりつける」があるけれど、「やっつける・やつける(飛騨方言)」以外はなさそうね。それはまた、明晩のお話ね。ほほほ |
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