大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム
卑罵語とは
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僕:最近、二冊の書を購入した。真田真治・友定賢治編・県別罵詈雑言辞典、奥山益郎・罵詈雑言辞典、二冊とも東京堂出版。通読はしたがすぐ忘れる。前者は岐阜県担当が山田敏弘先生。つまりは県別の方言辞典。後者は出版報道に長く携わってこられた個人の出版で、所謂、差別語に類する言葉の集成にて方言色は無い。
君:最初の蔵書が
全国アホ・バカ分布考 ISBN4-10-144121-9 C0181
ね。
僕:大変に優れた内容だ。国語の学会に招聘されて御発表なさったんだ。
君:それにしても卑罵語って放送禁止用語とか、大臣の食言事件とか、貴方が正面切って取り組むべき内容じゃないわよ。一生懸命にお調べになって出版なさった先生方には申し訳ないけれど。
僕:そうだね。そもそもが卑罵語とは何だろう。明確な定義なるものは無いようだし、手元の広辞苑第六版にはそもそも記載すらない。ネット情報によれば軽蔑語・差別語と同意語で話し手が聞き手または第三者に対して軽蔑の気持ちをこめていう語。「こいつ」「…め」「…やがる」の類。軽卑語。親しみのあまり軽卑語を使う事もあろうし返って有効な事もあろう。その逆に丁寧な言い方・敬語であっても慇懃無礼という事もある。この際は感情は抜きにして純粋に方言学的立場、言語文化的な立場から、あるいは歴史的観点から卑罵語を考えてみたい。まずば「びい卑」。
君:これは全国的に「女性」の意味ね。
僕:その通り。「び美・ひ妃」との連想で、最近のニュアンスとしては飛騨方言でも、可愛らしい女の子、の意味で用いられると思うが、男に対して女は卑しいという発想から生まれた言葉。古代における女子の賤民の称。男子の「ぬ奴」とあわせて「ぬひ奴卑」。律令制下には公奴卑・私奴卑があった。
君:全国の方言としては相当の数の音韻変化があるわね。
僕:そう、ざっと百五十。最頻としては「びった」「びったれ」あたりか、「ひ」を更に語気を強めて言う場合。まあ、死語にはなりつつあるだろう。誤解を受けやすいのが、飛騨方言では女子の第一人称代名詞として「おり俺」を用いることがあるが、これは実は謙譲語。
君:若い女性は使わないわね。老婆の言葉。何故、謙譲語かというと「おれ」の語源は「おのれ己」、つまりは自分を遜って言う言葉だからね。
僕:うん、江戸時代辺りまでは男女で普通に使われていたが、中央では専ら男子の第一人称代名詞として使われるようになって以来、田舎に女子の言葉「おれ」が残っていると、これがぞんざいな言い方に響くという事らしい。
君:「きさま」は卑罵語になっているけれど、元々はいい意味で使われていたのよね。
僕:「きさま」は近世語だね。しかもその前期は尊敬語からスタートしたものの、中期は対等の身分関係の相手に対して、後期及び近代語・現代語としては自分より身分の低い者に対して、という事で、言葉が誕生するや数世紀であっという間に言葉の値打ちがさがった。敬意逓減の法則という。
君:全国のアホ・バカ分布、つまりは東西対立に関してはどうかしら。
僕:飛騨方言に「だばえた(ふざけた)」という言い回しがある。飛騨は大阪「あほ」でもなく、東京「ばか」でもなく、「たわけ」の地方。
君:「そんなたあけたいな!」などというわね。「そんなたわけたような(事を言って)!」の意味よね。
僕:さらにその発展形が「どたわけ」「おおだわけ」「くそだわけ」「おおくそだわけ」辺りかな。
君:更に後方成分としては「のこんこんちき」かしらね。江戸語だけど。ほほほ
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