ザ・飛騨弁フォーラム方言学書物

全国アホ・バカ分布考 ISBN4-10-144121-9 C0181

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新潮文庫から出版されている本で、方言愛好家にとってはバイブルに近い書籍になっているのではないでしょうか。著者は松本修氏、朝日放送に入社、バラエティ番組の制作に携わっておられたのですが、1991年の「探偵ナイトスクープ」という番組で、アホ・バカ表現の全国分布を調査という企画をなさいました。氏はその番組をきっかけにこの日本語表現の虜になってなってしまわれたのでした。

その後は素人なりの地道な研究が始まるのですが、彼の用いた手法はありとあらゆる人脈作戦です。社の仕事仲間は言うに及ばず、全国の自治体すべてに地元言葉をお尋ねするアンケート調査を開始したり、またそれだけではなく流石というべく松本修氏は京都大学法学部のご卒業にて、彼は方言学の専門書を読み漁り、続いておびただしい数の古典文献を渉猟し、疑問があれば迷う事なく彼一流のコネで多くの専門家に助けていただいて、じわりじわりとアホ・バカの語源に迫ります。専門家とは大阪大学文学部や京都大学文学部の国語学の学者様がたです。素人なりのユニーク発想は時にこれらの学者様がたも納得なさる出来栄えとなり、遂には松本修氏は方言学の全国学会の演者の大役を成し遂げられたのでした。遂に真実は明かされ、彼は学問的な評価を得るのです。

いやあ、世の中には本当に賢いお方がいらっしゃるのですね。マスコミでお忙しい氏でしたが、出版社に拝み倒されて出版なさったのがこの本なのでした。「あほ・ばか」の問題にかかわってから出版に至るまで、つまりはゼロからのスタートで金字塔を打ち立てるまでをお書きになったドキュメンタリー・自伝が「全国アホ・バカ分布考」です。ところで本書は1996年に出版されていて、私がサイトを立ち上げたのが2004年ですから、つまりは8年も前という事なのでした。若し私が当サイトの開設時期、つまりは2004年早々にこの本に巡り合っていたら、世の中には凄い人が居て何年も前に出版までしていらっしゃるのだから私がわざわざ方言サイトに書く事もない、と考えサイトを立ち上げなかった可能性があり、あるいは若しや、この本に書いてある事が難しすぎて理解できないからつまらない本に見えてしまって方言の勉強をやめていたかもしれません。つまりは今日まで私が曲がりなりにも続けてきた方言研究の過程の中にこの本は位置し、出会うべきして出会った書籍だと思います。

私も独学・我流ながら今まで方言学の基礎を勉強していたので、この本の素晴らしさをひしひしと感ずることが出来て、ちょうどいい時期に素敵な本との出会いでした。この本は文庫本とはいえ500頁を超える大作で、読むのには何日もかかりました。先ほど読み終えました。とても達成感があります。これはもう方言学の立派な教科書です。本当にいい本に巡り合えました。

また医者の私がこの方言サイトを立ち上げた当時、国語学の専門書を読むだけでは疑問がすべて解決したわけではなく、ネットを通じて知り合った方言お仲間とメールにてあれこれ情報交換していた頃が懐かしく思い出されます。また私とて松本修氏に負けてはおられません、私が今まで必死になって見つけた飛騨俚言の語源としては「てきない(大儀なり)」「はんちくたい(なからはんぢやくなり)」等々、その他多数にて切りがないのですが、ただしこれらには学問的裏付けがないのが弱点で、また私には松本氏のような文才はありません。Furthermore, 医者は医者、医学を真剣に学ぶべきであり、私が方言にうつつを抜かしている事は、ばれたら何を言われるのでしょう、未だに同業には秘密なのです。ぶふっ

ご興味のあるかたに一言でご紹介しますと、繰り返し出てくるお話が柳田國男の方言周圏論です。また出てくる文献は中世から近世までの古典が総なめで、更には中国の古典にすら行きつくのです。この辺りの著者の自由奔放な発想に読者はどなたもグイグイと引き付けられるでしょうし、つまりは国語教員のあなたにこそ是非ともご一読いただきたい内容です。また筆致は軽妙洒脱で、難しい内容を誰にも判りやすくお書きになっておられて、氏が国語学の専門家ではなく、テレビ界のプロである職業魂のようなものもヒシヒシと感じてお読みいただける内容です。

ところで飛騨方言では、この手の言い方としては「たわけ」が代表的な言い方で、これは実は名古屋を中心として、岐阜市・高山市でも用いられる東海地方特有の表現です。つまり代表的な名古屋方言です。文化は高いところから低いところへ伝搬するのが常ですから、つまりは岐阜・高山は名古屋の属国のようなものでしょう。その昔に斎藤道三が娘を織田信長に嫁がせた時代と事情は全く同じですね。「たわけ」の語源は「たはく」「たはぶる」「たはる」共に下二、あたりでしょう。物類称呼には163頁に、たわけとは田分也といふ、の記載がありますが、これは明らかに間違いにて民間語源、有名なお話ですね。

先ほど発見した以下の動画はおそらく1991年の「探偵ナイトスクープ」の放映内容でしょうね。



以下の動画は京アニ「君の名は」ですが、この場面、そういえば出てきましたかね。主人公・宮水三葉(みやみずみつは)ちゃんは生まれも育ちも飛騨の娘の設定で、作品の声は純粋な飛騨方言です。方言監修は地元下呂市出身の声優かとう有花さんです。



いつもながらの駄文をお読みくださいまして本当にありがとうございます。たったひとつの単語でも何世紀もの歴史があるのですから、たあけな私は気になってしかたなく、飛騨方言への興味はまだまだ尽きません。

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