関西ではアホ(ウ)といい、関東ではバカといいます。
その境界線はやれ静岡あたりだとか、これをテーマにご丁寧に出版された方もあります(松本修、全国アホバカ分布考)。
筆者がもう一冊ご紹介したいのが、堀井令以知、ことばの由来、岩波新書、です。
堀井令氏は、アホウもバカも同根、実は古語・ヲコ(*)に由来する言葉である事を書いておられます。
また同書によればアホウもバカも文献にあらわれるのは鎌倉時代である事、ヲコはそれ以前・平安時代以前の言葉であると。
また江戸時代には関西ではアホが使われだして現在に至っています。
つまりは、堀井令氏によれば
平安時代 鎌倉時代 江戸時代以降
関西 をこ アホウ アホ
関東 をこ バカ バカ
という訳です。
では飛騨方言はどうだったのでしょうか。おそらくは、
平安時代 鎌倉時代 現代
飛騨方言 ヲコ 関西からアホウが流入 アホ、バカともに使用
関東からバカが流入
従ってヲコは消滅
勿論、流入ルートは陸路、年速一キロです。関西からは東海経由で益田川を北上したか、
北陸ルートで神通川を遡ったかです。関東からは信州経由でしょう。
あるいは鎌倉時代に関西からアホウが流入し、室町以後に関東からバカが流入したのでしょうか。
はたまたその逆だったのでしょうか。
どちらの可能性もないでしょう。
現代人でこそアホウ・バカが同義語に近い事を知っていますが、
願わくは現代語アホウ・バカ(**)の先駆者たれ飛騨の民、
古典に両語があらわれる鎌倉時代からすでにアホ・バカ両語の差を知り、
用法までも心得ていたのが飛騨方言であろう、
というのが筆者なりの見解です。
ドアホウ、バカタレ、両語とも既に鎌倉時代からの飛騨方言の可能性があると
いうわけです。
勿論ですが真実はといえば、飛騨方言にアホウ・バカが現れるのは
鎌倉期から江戸時代までの間、という事になりましょう。
いずれにしても飛騨高山から京都へも、鎌倉へも距離は歩いて十日前後です。
鎌倉時代に飛騨の民が既にアホウ・バカ
の両語の使い分けをマスターしていても筆者には何の不思議もありません。
(*)をこ(痴、鳥滸、尾籠)
名詞・形容動詞ナリ。
本人は大真面目でありながら世間の常識を外れた、
他人に笑われるような行動をする事。
(記・中、宇治拾遺11、徒然167、等)、新明解古語辞典、三省堂
(**)飛騨の佐七が考える現代語アホウ・バカ
アホウ(そんなアホウな) =適当にぼかす、事を荒立てず、場をうまく繕う。
バカ(そんなバカな) =きちんと理屈で説明する、国際的に通用する言葉・論理で話す
追記 2006.9.1 アホウの語源ですが、ヲコ説以外には秦の始皇帝「阿房宮」説が最有力だそうです。
中国江南地方方言「おばかさん」を意味する「阿呆(アータイ)」の日本語読み説も
なるほど目からうろこです。