大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
飛州志アンケート(宮川村1981) |
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私:飛州志について貴重な追加資料を発見した。当サイトとしては令和における最大収穫とでも言うべき資料だ。旧宮川村(現高山市宮川町)の村民22人全員に飛州志に上梓されている109個の語彙について知っていますか、という調査を行った結果だ。主体は宮川村村誌編集委員会で、昭和56年(1981)の村誌通史編・下に発表された。ざっと40年前、貴方と私は既に社会人。左肩の数字二つは知っていない人と知っている人の内訳で、当然ながら足すと22の数字になる。 君:なるほど、約半世紀前のアンケートの発見、昭和の時代には江戸時代の飛騨方言・飛州志の語彙の約三分の二が既に死語に近い状態になっていたのね。逆に言えば、約三分の一は1981年-1728年、つまり二世紀半に渡って生き延びてきた語彙という事になるし、それら昭和の生き残りの語彙は、三世紀を経て令和の今も現役なのよね。 江戸時代の 否/知 飛騨方言 現代語訳 ------------------------------------------ 22/00 やた 籾 22/00 あらもと 米のふきこぼれ 05/17 ゆるこ 米粉 06/16 せいな 米のしいな 21/01 をやす 庄屋様 22/00 をんの 祖父 22/00 なぼう 祖母 22/00 だだ 母 01/21 ぼう 男児 01/21 びい 女児 15/07 だし 子供 15/07 ごりょう 少女 22/00 ごれん 嫁 19/03 まま 乳母 20/02 やら 我 19/03 をらら 我ら 18/04 あんじゅ あの衆 20/02 威名衆 表彰された人 19/03 威名田 同上 21/01 かほう 小作人 02/20 すま すみ隅の事 17/05 ちゃうだい 民家の納戸 11/11 かまち 民家の上坐 21/01 わかた 上のほう 21/01 うれ 上 01/21 あらと 山川村入り口 16/06 へえつぼ 穀物の収納庫 22/00 をち 大路、外地 19/03 えみぞ 溝 22/00 ぬのばし 材木を渡した橋 22/00 ぬのかわ 静かな流れ 13/09 さらた 水をほして作る田 10/12 みずた 水を湛えて作る田 06/16 ぬまだ 深いどろの田 15/07 あわらだ 深いどろの田 19/03 あと 田の入出水口 16/06 そめ かかし 22/00 やきだて 害獣よけ 22/00 どうづき (流水に)たよる 19/03 ししおとし 野猪を捕るわなの穴 21/01 をせ 野猪を捕るわなの穴 20/01 くまおとし 熊を捕るわなの穴 17/05 うとろ 木石の中が真空 16/06 すろ 凡中真の穴 16/06 いなばき 筵むしろ 22/00 そうげ 塩笥、口の広い杯 02/20 つぶら 幼児を養育する籠 22/00 ひらか げた 03/19 いしなうす いしうす 20/02 かち 搗、もちつき 00/22 ちゃまが 茶釜 22/00 えんど 印籠いんろう 09/24 どんびき かえる 20/02 いぐいす うぐいす 18/04 じょじょ 鰌どじょう 09/13 あっぽ 餅もち 17/05 ひりめし 昼飯 22/00 こしのせ きこしめせ 16/06 をむじゃれ 食物をすすめる事 14/08 う 湯ゆ 15/07 ぶたぶた 水の流れる音 06/16 またじ 用意 19/03 がっと 大分だいぶ 04/18 たらふく 十分 18/04 だんさく 沢山 18/04 ふたん 沢山 13/09 へいと 一面に、平等に 08/14 りこう 凡て宜しき 02/20 でかい おおきい 06/16 ぶんぶ 小児を背に負う事 13/09 あぶ 小児を肩に乗せる事 15/07 おい子 背に負う事 17/05 ばかてつ これかぎり、こればかり 17/05 ほぜ 木の枝、木のおれた物 19/03 くせ この方へ越せ、の意味 02/20 てきない くるしい 18/04 でこ はなはだしき 01/21 をそがい おそろしい 10/12 すかぬ 気味が悪い 22/00 ぼせ 押せ 19/03 ふんぎゃらかせ 踏み倒せ 22/00 きっくちがへし 言葉返し 19/03 ぎゃめく わめく 21/01 ぬまくたわら 泥沼 10/12 いまいましい もったいない 22/00 まいきさ 傍若無人 15/07 きゃった きやった 22/00 そこなて そこらあたり 02/20 えがむ ゆがむ 10/12 しゅげる しげる 11/11 さかよる さかえる 19/03 ほける ふける 22/00 こしょ とこしなへ 21/01 せんせほう おりふし 01/21 きのうのばん 一昨晩 17/05 やど 家主 12/10 よりかへる ふりかえる 01/21 よぼる よぶ 16/06 あやほや 彼是かれこれ 08/14 ままやく まちがえる 21/01 いちげん振る舞い 結婚披露宴 22/00 てつとしょう 必ず実正 16/06 しよもんしょう 証文実正 22/00 てう まこと 08/14 雪おこし 雪の夜の地鳴り 14/08 てうはい 年初めの礼 21/01 はたうち 畑の耕作 21/01 わたむき まゆを綿にする 22/00 めんたい めでたし私:まあそんなところだ。抜き書きしてみると、つまりは大半の人が昭和でも知っていた語彙だが、ゆるこ、せいな、ぼう、びい、すま、あらと、みずた、ぬまだ、つぶら、いしな、ちゃまが、どんびき、あっぽ、またじ、たらふく、りこう、でかい、ぶんぶ、てきない、おそがい、すかぬ、・・こんなところかな。 君:ただ羅列しただけではプレゼンとしては失格だわよ。 私:そうだね。早速に、これらの抜き書きした語彙からハイライトをあぶりだそう。ダントツの一位、超ブッチギリ一位は何の言葉だと思う。 君:ほほほ、「でかい」でしょ。 私:その通り。今や現代共通語だが、江戸城からの出張エリート官僚・飛州郡代・長谷川忠崇がびっくりした飛騨方言だからね。当時、江戸では「いかし(いかい)」と言っていた。飛騨の人達はこれに「ど」をつけて「どいかい」さらには「でかい」と言った。これが江戸でバカ受け、現代共通語になっているのだから。 君:マスコミで話される「でかい」がどうして飛州志に記載されているのか・別に珍しい言葉でもないのに、と思ってアンケートに答えた村の人が大半だったのじゃないかしら。 私:大いに有り得るね。 君:では次は。 私:そりゃもう、「たらふく鱈腹」だろう。勿論、おなか一杯という意味だが。 君:凄いわね。これって飛騨方言で、これも長谷川忠崇が飛騨の任期が終わるや江戸城に戻り、これがまた江戸でバカ受けという言葉だったのかしら。 私:そう、その通りと考えたいところだが。実は、この言葉は1620年三体詩絶句しょう(金偏に少)にある言葉のようだ。長谷川忠崇さんが単に知らなかった言葉の可能性が高い。でも誰かが「たらふく」という言葉を飛騨に持ち込んだのだろうが、年代的には金森長近だろうか。 君:そういう単純発想は危ないわよ。 私:かもね。でも鱈腹と言う言葉に俄然、興味を持たないかい。僕は一生かけてでも、この謎を解決したい。 君:「りこう(全て宜しき)」、つまりは利口の意味なのかしら。これは止めて欲しいわよね。 私:そうだね。利口は古語辞典もあり、日本語そのものだから、そのあたりが実は深堀り出来ていないんだ。どうして彼は「りこう」という飛騨方言に感激してしまったのだろうか。 君:それに「ちゃまが」、何よこれ。「ちゃがま茶釜」の事でしょ。面白くも何ともないじゃない。 私:いやあ、素直に同感。面白くも何ともないし、日本人なら誰でも「ちゃまが」と聞いて「ああ、ちゃがまの意味だな」と瞬時に判断するだろう。 君:令和になって更に死語になってしまった語彙もあるのよね。 私:そうだね。「ゆるこ」、昭和の時代には宮川村の大半の人が知って使っていた。 君:「ぼう」「びい」「またじ」「てきない」あたりは飛騨方言として未来永劫に残りそうね。 私:ああ、間違いないな。 君:方言って意外としぶとく生き延びてるのね。 私:結論は簡単だ。生活に密接した語彙は生活スタイルの変化に従い消滅する。感情表現とか、つまりは飛弾の人々の心に響く言葉は生き延びる。 君:しかも、悪い意味の言葉がしぶとく生き延びるのよね。 私:しかり/みやび/の/ことのは/こそ/のこら/まほしけれ。 君:さ/なる/こと/こそ/ありがたけれ(=highly unlikely)/いと/はんちくたし(=too pitiful)。 |
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