いきなりに事件の答えですが、つかえる、という動詞は飛騨方言でひっかかるという意味です。
使う事ができるという可能動詞の意味ではありません。
物がのどにつかえる、と言いますから共通語ではないか、と主張したい方もいらっしゃいましょう。
広辞苑に少し説明がありましたが、下二段動詞・支(閊)ふ、は室町時代からはヤ行にも活用した動詞で、
塞がったり、突き当たったりして通らない事、とどこおる事を示します。
日葡(にっぽ)辞書には職がつかえる、つまりはなかなか昇進できない、などの文例があるようです。うふふ。
職がつかえる、といえばやはり日葡辞書の通りの意味の飛騨方言になります。地位・立場を利用して不合理にも何かに対して利益を導く、というような職権乱用という意味ではありません。
トイレがつかえる、という飛騨方言ですが、トイレが使用可能であるという意味ではありません。
大変に混みあっているので長蛇の列を待たないことには用足しできないという意味になります。
鉛筆削り器がつかえる、といえば鉛筆がひっかかって使用出来ない状態を示す飛騨方言になりましょう。
さて飛騨森喋太郎君ですが、高山産業の係長さんに昇進しました。
日葡(にっぽ)辞書の文例じゃありませんが、まだお若いのに順当に昇進されてよかったですね、ホント。
さて新係長さんは年度も改まり、朝の始業に三百人余の全社員を前に三分間スピーチをしないといけません。
職場のしきたりです。勿論、事前に通知されていますので、前の晩まで原稿を作り、読み上げ練習していたのです。
聞き手はご母堂さまと新婚ほやほやの細君・旧姓東京花代さんです。花代さんは飛騨方言を全く知りません。
いよいよ本番の朝に予定通りの三分間スピーチがありました。
そして帰宅した喋太郎君にお母様が早速に尋ねます。
どや?、あんばようしゃべれたが?
(=どうですか、あんばいよくしゃべれましたか)
一瞬の沈黙が流れたものの喋太郎君がひとこと発するに、、
・・・・つかえてまったさ!だしかんなあ(=だめだな)!!
この言葉に呼応して花代さんとお母様がすかさず同時に発した言葉ですが、
花代さん(はずんで):喋君やるう!にくい!オチの所、皆さん笑ったのね!!
お母様(しょんぼりと):なんじゃ、そうやったがよ、残念またこんどやさ。
注釈も野暮というものですが、喋太郎君は、かなり練習したにもかかわらず言葉につまってしまった、と言ったのです。
花子さんは勘違いして、計算どおりのオチが使えてよかったわね、と言ったのです。
お母さんは、喋太郎よ名前負けと思わずにまた頑張りなさい、と言ったのです。
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