大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

日本語アクセントの型一覧

戻る

僕:昨日は「薄い」形クのアクセントで、思わず焦ってしまった事をお書きした。
君:飛騨方言の形容詞のアクセントは中高のみなのだけれど、世間様は三拍形容詞を、あるものは中高アクセントで、あるものは平板アクセントで、と器用に使い分けていらっしゃるのに、それにお気づきにならなかったのよね。
僕:実は驚いた事は二点あった。ひとつは、君が今おっしゃった事は既に気づいていて過去の記事になっているのだけど、それをすっかり忘れてしまっていたという事。飛騨方言における三拍品詞のアクセント律
君:あらあら、でも思い出せたからよかったじゃないの。
僕:そうだね。それともう一点は、アクセント学用語について、いままで一般論の文章を書いて来なかったようで、はじめて当サイト記事をお読みになるかたには専門用語の羅列で難しい文章と感じてしまわれたのでは、という事。
君:ははあ、だから今日は基礎の基礎、用語についてお話しなさるのね。
僕:そう。こういう事はその辺の教科書に書いてある事をお伝えするだけの事だから、あれこれ辞典の調査も要らないし。
君:では、どうぞ。
僕:アクセントというのは音の高低(ピッチ)と強弱(ストレス)で、日本語はピッチアクセント、英語はストレスアクセント。日本語と英語、両語ともにアクセントはあるが、形式がまるで違うという事だ。こんなことは中等教育では習わないし、現場の英語教員でもどの程度、ご理解して教育現場で実践しておられるのか、日本人の発音が下手な最大の原因だと僕は常々、思っている。新幹線や飛行機での案内だが、聞くに堪えられない英語だよね。
君:今日は英語のストレスアクセントの話はやめて日本語のピッチアクセントの話だけにしてね。
僕:うん、音の高低でアクセントが決まる日本語だが、実に簡単なルールで出来ている。
君:つまりは。
僕:あがったり、さがったり、と複雑に変化するのではなく、全ての品詞において高い・低いの切れ目はたった一か所しかないんだ。
君:一拍品詞はどうなの。
僕:アクセントは二種類に絞られる。「歯が痛い」「蚊に刺された」というだろう。前者は「が」のところで下がるし、後者は「に」の部分では下がらない。歯は尾高「おだか」、蚊は平板「へいばん」アクセントだ。
君:拍数が増えればいろんなパターンがあるわね。
僕:いや、その逆だ。日本語のアクセントは極めて単純。一言でいうと一か所高いところがあるだけ。その前に、日本語アクセントは平板(へいばん)と起伏(きふく)に二分される。平板とは上記の例「蚊」のように自らが下がる部分を持たないアクセント、つまりは上がり調子のアクセントだ。その一方、起伏アクセントには頭高(あたまだか)、尾高(おだか)、中高(なかだか)、の三種類がある。つまりは日本語のアクセントは四つしかない。平板、頭高、中高、尾高。
君:なるほど、「歯」はそれ自身でさがるアクセントだから一拍の最後の部分でさがっているので尾高という意味よね。
僕:その通り。一拍品詞で起伏アクセントのものは頭高でも中高でもない、要は日本語のアクセントは下がる事に大変な意味があり、上がる事にはあまり意味が無い。
君:なるほど。じゃあ、二拍の品詞はどうなのかしら。
僕:ははは、良い質問だ。低い音韻は白丸、高い音韻は黒丸で表記する方法がある。二拍の場合は、平板「とり鳥○●」、尾高「はな花○▼」、頭高「あめ雨▼○」の三種類だけ。二拍品詞に中高アクセントは有り得ない。▼はアクセント格。高いが続く音が下がる。○は低い音のモーラ。●は高い音のモーラ。
君:ほほほ、三拍品詞になって、やっと中高アクセントのお出ましね。
僕:その通り。平板「さくら桜○●●」、尾高「おとこ男○●▼」、中高「こころ心○▼○」、頭高「いのち命▼○○」。
君:私、今、大変な事に気づいたわ。
僕:へえ、なんだい。
君:四拍、五拍、六拍と増えていくと、中高アクセントのパターンだけが増加していくのよ。それに対し平板と尾高は拍数に関係なく二拍目以降に上がったら、ずうっと上がりっぱななし、ただし尾高の場合は最後の拍で下がるのだわ。その一方、頭高の場合は拍数に関係なく二拍めで下がってあとはずうっと下がりっぱなし。
僕:おっ、するどいね。その通りだ。どちらにせよ、何拍であろうが日本語のピッチアクセントは上がる箇所は一か所だけ、という事がわかるね。
君:ほほほ、もうひとつ気づいたわ。下がる箇所が無いのが平板型。その一方、尾高、中高、頭高、つまりは起伏アクセントには必ず一か所だけ下がる箇所がある。
僕:へえ、するどいね。その通りだ。その一か所だけある下がる拍の事を「アクセントの核」というんだよ。
君:つまりはアクセントの核が無いのが平板アクセントで、アクセント核があるのが起伏アクセントというわけね。
僕:正にその通り。これは方言学では有名な話だが、福島県と宮崎県の方言は実はアクセントがなく、つまりは起伏で話されないんだ。これを無核、曖昧、あるいは崩壊アクセントともいう。
君:でも、アクセントって微妙な問題で、ゆらぎがあるのじゃないかしらね。
僕:その通り。書き言葉で意味が通じるのだから、アクセントのお遊びもほどほどにという訳だ。ところで日本語アクセントについては数々の法則があるのだが、ひとつだけ紹介しておこう。「すべての名詞は平板化に向かう」という法則がある。
君:例えば。
僕:中学校で mail という英単語を習う。語頭に強アクセントがあるので、インターネットが始まった当初、電子メール、という単語を日本人は中高アクセントで発音していた。これが短呼化して皆が初期の頃は英語の影響もあり頭高「メール▼○○」というようになったが、今や国民の言葉となり、「メール」は平板アクセント○●●になってしまった。
君:何か意味があるのかしらね。
僕:意味はある。大ありだ。尾高「はな花」だが、これが平板になる事があるんだよ。
君:それはないでしょ。
僕:そんな事はない。格助詞「の」に接続する時、全ての尾高名詞は平板アクセントになる。例えば「花の首飾り」。
君:そう言えばそうね。
僕:複合語、連語などが形成される時は、その言葉がひとかたまりとしてアクセントを形成する事になるから「花の首飾り」は実は「か」にアクセントの核がある中高アクセントというわけだ。
君:なるほどね。
僕:つまりは接頭語(辞)として繰り返し使用される名詞はやがて平板アクセントが定着してしまうし、逆に接尾語(辞)にしか使われなくなる名詞は中高ないし尾高が定着していくのだろうね。
君:今日は一般論という事で飛騨方言のアクセントに踏み込めなかったわね。次回に期待。あがせをかしき記事しるさるることこころよせにおもひまさまし。

ページ先頭に戻る