大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

垣内松三(かいとう・まつぞう)

最近ですが、岐阜県の偉人をキーワードにネット検索していて偶然に発見した人、垣内松三先生は戦前から戦後に活躍なさった国文学者、国語教育者で、ご出身が飛騨高山なのでした。つまりは旧制斐太中学の(現・岐阜県立斐太高等学校)ご卒業なので、私の高校の大先輩という事になります。ちなみに斐太高校は例年、名古屋大学に大量の入学者を輩出する県立岐阜高校と並び称されて岐阜県で二番目に古い高等学校ですし、全国で唯一、白線流しを卒業式で行う事がマスコミで例年取り上げられます。さらには京アニ「氷菓」の舞台となった高校です。更には斐高は岐阜県の高校の口コミランキングでは長年に渡って堂々一位を独走し続ける「おらが高校」なのでした。早速に手元の同窓会名簿を括ってみました。第一回生は明治21年で、なんとたったの五名。垣内松三先生は第七回生で、この時ですらたったの九名です。それでも九名中、五名が東京帝国大学卒となっています。すごいですね。現代版の灘高・開成・筑駒といった進学校だったようです。明治の旧制斐太中学出身者の優秀ぶりの香りが漂ってきます。

垣内松三先生は旧制四高(現在の金沢大学教養部)に進学なさって、その後に東京帝国大学の国文科のご卒業です。生涯を戦前の国語の初頭教育・中等教育の確立にご尽力なさったようで、国民に教えるべき漢字の数とか、あるいは文章読解力、音読の勧め、などをストップウォッチを用いて学校で研究、教育の実を時間で数値化・見える化なさったり、西洋、主に英語圏の教育理論などを日本に紹介、根付かせる、などの仕事を生涯、なさったようです。おなくなりになったのが1952年8月25日(74歳没)のようで、私が生まれる(1953/8/8)一年前だったようです。

膨大な数の著書がおありで、先生の遺徳を偲ぶお弟子様がたがこれまた全国に数千人いらっしゃるようです。代表的な著書が「国語の力」という単行本、古書ですが、アマゾンから入手可能でした。2020GWに読んでみました。形象理論、センテンスメソッド、言葉の三角形、等々、かなり難解な専門書ですが、なんとか読み終える事が出来ました。

実は、垣内松三著「国語の力」不老閣書房1に全文が公開されていました。アマゾンでわざわざ買うまでも無かったかな、という事です。他には、例えば垣内松三研究一教材構造観 と読解指導過程一後 藤 恒 允解釈学的国語教育の源流、『国語の力』――「国語教育」臨時増刊号('82.12)をめぐって 山下 明などもご参考までに。

実はここまでは月並みな記載です。私が購入したのは明治図書版で1991年5月5版刊(ISBN4-18-380009-9)です。読み始めてしばらくして、実は英単語の誤植を発見してしまいました。細かい事が気になってしかたない私のこの癖は子供のころからで、特に大学生になってからは教科書の粗を探すのが趣味になってしまいました。学生だてらに米国の出版社に誤植がありますよ、と抗議の手紙を書くのが趣味だったかつての私。そんな私ですから、「国語の力」を読み進めても、まだ他に英単語の誤植が無いか、気になって仕方ありませんでした。医者を辞めて洋画の字幕スーパーを作る仕事に代わりたいと思った事がかつてありました。さて、・・・以下の通りです。
 45頁11行  eriticism (x) --> criticism
 50頁06行  subjectivecritcism (x) --> subjective criticism
 57頁17行 発音機関 --> 発音器官
 58頁18行 veilled  (x) --> veiled
 60頁17行 viatality (x) --> vitality
 73頁03行 preliminaly (x) --> preliminary
150頁19行 international intercourse  (x) --> 思わず絶句、わざわざ
               このようなお下品なお言葉をお使いにならなくても
               ほかに幾らでも別の言い方があるでしょうに
165頁01行 「・・」と書い時のやうに --> 「・・」と書いた時のやうに  
垣内松三先生、いくら何でも間違えすぎ、実はもうひとつ、別稿みしとくれにお書きした通りですが、「見せて」とお書きになるべきところを「見して」と記述していらっしゃる箇所があったのです。

私が生まれる一年前にお亡くなりになった先生ですから、私の思いを先生にお伝えする事はできません。若しかしてご遺族の方々に著作権が移行している可能性もあり、また、たまたま私のこの文章が目に触れて、ただただ不愉快なお気持ちになられるのでは、と実は三日三晩、書こうか書かないでおこうか、散々に悩んでいました。

私の斐太高校の同級生には金沢大学の文学部に進学した者が二人います。二人ともかつては国語の教員で、今は定年退職ですが、近々、同窓会で逢うはずです。つまりは二人にとっては斐太高校の大先輩かつ金沢大学の大先輩たる垣内松三先生の著書に私が以上の誤植を発見した事についてどう思うか、聞きたい気持ちです。(実は私はあなたにこそ、そっと聞いてみたい。)さて、私は連休に丸二日かけて「国語の力」を一字一句、考えながら熟読玩味したつもりです。だからこそ誤植に気づいたのです。私のこの真摯な態度はきっと垣内松三先生もお認めくださると思います。

垣内先生へ、

先生はご自身の著書が後世に斐太中学の後輩の私に読まれる事は想像しておられなかったでしょう。時枝誠記東京帝大教授を始め、帝大の蒼蒼たる学者様が全て垣内先生のお弟子様だった事も知って、嬉しく思いました。私の先生のご業績の研究は始まったばかりです。