大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 題して佐七のブログ 

桃太郎を飛騨方言で

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岡山シティミュージアムに元祖民話・桃太郎が公開されています。これをちょいと飛騨方言に訳してみましょう。「桃太郎+方言」をキーワードにネット検索しますと全国各地の方言版が見つかります。流行なのですね。手っ取り早く楽しみながら各地の方言を学ぶ方法でしょう。

飛騨方言への変換のポイントは三つです。★まずは動詞の音便です。飛騨方言を特徴付けるのがサ行動詞連用形のイ音便です(例 出した、を、出いた)。共通語では音便化しません。飛騨方言ではカ行動詞等の連用形は共通語と同じく促音便ですが(例 買った)、畿内以西ではウ音便です(買うた)。★続いては方言文末詞です。飛騨方言に特徴的なのが指定の助動詞「や(じゃ)」に「さ」を更に付加し、「〜やさ、〜じゃさ」の方言文末詞を用いる事です。★末筆ながら、結末句「しゃみしゃっきり」については書かずもがな、飛騨びとの精神的財産と言えましょう。
むかしむかしなぁ、あるところに、じいさまとばあさまがござったんやさ。じいさまぁ山に芝刈りに行くし、ばあさまぁ川に洗濯に行ったんやさ。

ばあさまぁ川で洗濯しよったら、川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ、って流れてきたんやさ。ばあさまがそれをしゃくで引き寄せて、食ってみたら美味かったもんで、「もひとつ流れてこいよ、じいさまにやるで、もひとつ流れてこいよ、じいさまにやるで。」てそったら(言ったら)、また川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこって流れてきたんやさ。そいつをしゃくで引き寄せて、持って帰って、おひつの中に入れておいたんやさ。

そしたらじいさまが夕方帰って来たもんで、「じいさま、じいさま、今日な、川で洗濯しよったら、大きな桃が流れてきたもんで、おひつの中にしまっとるんやさ。出して食いないよ(食べなされよ)。」ってそったら、「そんなら、よばりょうか。」てそって、じいさまが、おひつのふたを開きょうとしたんやさ。

ところがなぁ、かとうてあかん。押しても引いてもあかん。しようがないもんで、じいさまぁまさかりを持ってきて、おひつを壊いだんやさ(こわいだ、サ行イ音便)。そしたら、おひつの中で桃が二つに割れて、中からぼう(男の子)が生まれてきたんやさ。

「ばあさま、ばあさま、桃ん中からぼうが生まれとるで。うちにゃあ子どもがおらんで、これをうちの子にして育てまいがよ。」ってじぃさまぁそったら、ばさまぁ「あっ、そやなぁ、そしゃうちの子にせまいがな。」てことにしたんやさ。桃から生まれたもんで桃太郎という名前にして、育てたんやさ。

ぐんぐんと大きょうなってなぁ、すぐになぁ、近所のでっちどもとおんなじぐらい大きょうなった。そしたら近所のでっちどもぁあ「桃太郎さん、桃太郎さん、山に木ぃきりに行かんかえな。」って言って誘いに来たんやさ。

そしたら桃太郎が、「今日はな、わらじを作らんとだしかんで、行っとってくりょ。」「そんなら明日行くさ。」でっちどもぁ、山へ木ぃきりに行ったんやさ。次の日にまたでっちどもが、「桃太郎さん、桃太郎さん、山に木ぃきりに行かんかえな。」「んん、今日はな、わらじのヒゲをむしらんとだしかんで。」その次の日には、「桃太郎さん、行かんかえな。」「今日は、せなあてを作らんとだしかんでいけん。」その次の日には、「せなあてのヒゲをむしらんといけん。」」 その次にゃあ、「綱をなわんといけん。綱のヒゲをむしらんといけん。 鎌ぁとがんといけん。まさかりをとがんといけん。ノコの目立てをせんといけん。」次から次に用事作って、桃太郎はちょっとも行かなんだそうな。

「桃太郎さん、まんだまわし(用意)できんか、行かまいがよ。」って言ったところが、「やれやれ、やっとまわしができたで、そんなら行こうかなぁ。」言って、桃太郎はみんなと一緒に山に行ったんやさ。

行ったら、みんなぁすんと木をきりだいだんや(切り出した、サ行イ音便)。ところが、桃太郎さんは、「いやぁ、久しぶりに来たなぁ、ちょっと一休みじゃぁ。」日なたに腰をかけて、休んどったけど、そのうちに眠とぉなって横になって、「ゴォーー、ゴォー。」寝だいたんやさ(寝だした、サ行イ音便、寝始めた)。

そうしとる間(ま)にでっちどもぁ、木ぃ切り終わってまって、もうぼつぼつ荷ごしらえができたんやさ。「ありゃ、もうおてんとう様、西の山へかくれるぞ。」言って、「桃太郎さん、桃太郎さん、日が暮れるで、もう帰らまいがよ。」ってそったところが、桃太郎は、「アーーーァ。」おぉーきな大あくびをして起きてきた。「ありゃっ、もうおてんとうさんが西に傾いたかぁ。こりゃぁ、おまえだちゃ、荷ごしらえできたか。そんなら、わしも荷ごしらえしょうかぁ。」言ったかと思ったら、ひと抱えもふた抱えもある大きな木の根元に行って、しょんべを「ジャァーーッ、ジャーッ。」としたんやさ。「しょんべまるとな(おしっこすると)、土がやわらこうなるでなぁ。」そんで、そのおぉーきな木を根元から引き抜いて、かついで持って帰ったんやさ。

「ばあさま、木ぃ取って帰ったで。どこへ置こがな。」「木ぃ取って帰ったら、木小屋に置きないよ(置きなさいよ)。」「木小屋に置いたら、木小屋がくずれてまうながいな。」「そしゃ、庭のすま(隅)に置きないよ。」「庭のすまに置いだら、庭のすまぁくずれてまうながいな。」「そしゃ、裏の山にでも立てかけないよ。」「裏の山に立てかけておいたら、山がくずれてまうながいな。」「そんなら、そんなものぁいらんで、前の川にでも捨てときないよ。」って言わさったもんで、桃太郎は、そのおぉーきな木を前の川に投げ捨てたんやさ。そしたら、「ドサァーーァッ。」大きな音がして、じさまもばさまもビックリしたんじゃとよ。

・・・しゃみしゃっきり。

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