大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

略音

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私:今夜は略音について。英語では abbreviation。LL abbreviatio cf. abbreviate <L. ad-, to + breviare brevis, short >
君:具体例をお願いね。
私:昨晩の続きで、飛騨方言に形動タリ「ごた」がある。これが略音。上古の言葉で「たくせん託宣」があった。これに丁寧語の接頭語「ご御」がついて「ごたくせん」になった。ところが末尾の二拍が脱落して「ごたく」になった。これは共通語でも使われ、例えば「ブーチンが御託を並べる」。そして全国の各地で更に略音が生じ「ごた」になるのだが、こうなるともう、元来の言葉「たくせん」とはかけ離れた音韻になる。その結果として「ごた」は全国共通方言なれど、古語とはかけ離れた意味、然も各地でバラバラの意味になった、という仕組みのようだね。
君:大変にわかり易いわ。
私:という事はほめ殺しか。誰でも簡単に思い浮かべられる理屈という意味だね。
君:まあ、そういじけないで。もっと話したい事があるのでしょ。
私:そう。「ごた」が更に略音現象で「ご」になる事は絶対にない。
君:言い切れるのね。
私:ああ、言い切れる。日本語の特質だ。「最小語条件」だ。要は日本語の場合、二モーラが最終形態という事。「やま」が「や」になったり、「かは」が「か」になる事は有り得ない。
君:二モーラでも伊呂波48の二乗だから、相当の数になるわね。
私:そう。
君:「なるほど」と言わなくても、「なる」と言っても通じるわね。
私:うん。そして1モーラの音韻も実は長音化によって、わざと2モーラで発音するのが日本語。つまり、歯は「はあ」、血は「ちい」と発音するのが普通
君:「血が出る」は二モーラの倍数だから収まりがよく、「ちいがでる」とは言わないのよね。
私:それに関して、今既に40歳近いおばさんの我が長女だが、二歳の時に怪我をして「ちががでた!」と叫んだ事を思い出す。
君:なる。
私:でしょ。
君:二歳の幼児が突然に主格を表す格助詞「が」を理解した瞬間だったというわけね。
私:長女は実はそれまで「血」の事を「ちが」だと思い込んていたんだよね。
君:つまりは大人が「ちがでる」という文章を「ちが(血)、いず出」という文章と勘違いしていた。
私:そう。「ちが(血)がいず出」のつもりで「ちががでた」と発した。
君:ほほほ
私:もう一つ、大切な点を。お尻のモーラからの略音は語源にたどり着くのは容易。これが頭のモーラの略音だとお手上げだ。
君:実例は?
私:飛騨方言に名詞「がで(=分量)」があるが、これの語源は「つかいで使い出」であると確信している。
君:なるほど、「つ」は言いにくいから省略しちゃったのね。語源探しは大変ね。
私:ああ、一年ほど考え続けて、ある日、突然に思いついた。
君:なる。

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