大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
イエスシ読本 |
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私:僕は受験が社会科は日本史だったので、日本の近代史・現代史についても大変に興味がある。 妻:イエスシ? 私:国語辞典編集資料国定読本用語総覧、国語教科書なども参考までに。 妻:イエスシ読本は明治37年使用「尋常小学読本」の俗称なのね。 私:その通り。名前の由来はその内容から明らか。 ![]() 妻:へえ、新制の明治政府はこうやって日本国民に国語を教えたのね。 私:イは椅子、エは枝、スは雀、シが問題だが実は石だ。何故、新政府は日本国民にイエスシを教えたのか、というか、教えなければならなかったのか、これは方言学と密接な関係がある。 妻:・・わかったわ。今でこそ日本語は日本に一つの言語で、イエスシの別も何もあったものじゃないけれど、明治の初めまでは各地の方言が百花繚乱、従って統一した言葉・音韻、つまりは統一した言語で国民を教育しないと近代国家としてスタートしないから、という意味ね。 私:そう、その通り。より具体的にはイエスシの場合、何が問題になっていたのかな。 妻:ほほほ、それは簡単な質問よ。イとエの発音の区別、そしてスとシの発音の区別、これを児童に教える事。 私:その通り。さて、前置きはここまで。続いては本日の話題、方言学だ。まずはイとエの発音の区別から行こう。 妻:つまりは明治初期にはイとエが明瞭に区別されない方言の地域があったのよね。 私:その通り。代表としてイとエの音韻の区別だが、更により具体的には「アイ」「ウイ」「エイ」「オイ」の発音だ。つまりは四パターン。しかもこの四パターンだが、たったひとつの強烈な同類項的方言問題という言葉で表現できる。わかるかな? 妻:わかるわけないわよ。あなたみたいな寝ても覚めても方言、方言の男と違って。あなたはいつから文学部になっちゃったの?私達夫婦は理系よ。 私:いや、すまない。答えは連母音融合。 妻:連母音が融合?・・わかったわ。明治時代までは、方言によっては「アー」「ウー」「エー」「オー」になっちゃう地域があったので、これをキチンと「アイ」「ウイ」「エイ」「オイ」と発音しなさい、という国語教育ね。 私:まさにその通り。より具体的には東北地方に見られる、所謂、ズーズー弁、というもの。つまりは明治政府の方言撲滅教育だ。続いては「ス」と「シ」の違いだが、これは方言学的には四つ仮名問題という。当然ながら四つ仮名発音は悪い事ではない。大問題なのが一つ仮名の方言だ。「ジ」も「ヂ」も「ズ」も「ヅ」も区別しない。そしてまたしてもここでやり玉に挙げられてしまったのが東北方言。寿司は「スス」と発音、かと思いきや、枝は「イダ」。イエスシ読本はかくて東北方言撲滅のバイブルとなった。 妻:なるほど、薩長土肥の東北憎しが根本にあったのかしら。 私:だろうね。 妻:ところでシで石はいいけれど、どうして語頭がシで二拍の言葉をお選びにならなかったのかしら。シカ鹿とか。 私:おいおい、正気か?イシを正しく発音できればイエの連母音融合撲滅の助けになるでしょ。 妻:なるほど。「えす・すえ」も明瞭に発音できれば猶更のこと良いわね。でも「S・末」のような抽象語は小学一年生には不向きね。ほほほ |
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