大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 方言学 |
フット foot |
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私:方言学に英語を持ち込むのはあまり宜しくないが、今夜の方言千一夜は「フット foot」だ。 君:昨日の津軽方言「け」で最小語条件で出てきた言葉ね。 私:最小語条件とは「語形成によって作り出さ れる語は最小1フットの長さを持つ」(窪薗・太田, 1998)。確かにそうなんだがわかりにくい表現だ。 君:具体例で簡単に説明してね。 私:うん。日本語は拍を中心とした音韻の言語だが、いわば二分の二拍子なんだ。これが最小語条件であり、フットでもある。奇数拍の単語も多い日本語だが、接続語をつけたり、活用したり、休拍を入れたり、長音化したり、短呼化したり、つまりはありとあらゆる手段を用いて日本人はこの二拍のリズムで日本語を話そうとする。例えば飛騨方言では「そしゃ・そや・ぞー(=それじゃそうしよう)」 君:なるほど。「そしゃ/そや/ぞ」+休拍で六拍のリズムで話しているという事ね。 私:四拍でも飛騨方言のセンスにあう。「そしゃそや」。「そや」の部分が仮に三拍になったとしよう。例えば「無しや」。この場合は「そしゃ・無し・やぞ」になって休拍は必要なくなる。つまりは飛騨方言の文末詞のリズムパターンは「ぞー」ないし「やぞ」。飛騨方言では文末詞として有名なのが「さ」だが、これも「さ」と「さー」を使い分ける。最小語条件が働くからだ。例えば、「そしゃ・いく・さー」あるいは「そしゃ・もら・うさ」とかね。 君:つまりはフットというのは二分の二拍子を文章に作るために足先でリズムをとる事になぞらえた言葉なんでしょ。 私:まさにその通り。フットというのはリズムそのもの。足跡 foot print と同意語ともいえるね。子供がもっと理解しやすい言葉としては、最小語条件(フット)とはラップ音楽の事。 君:確かに。ところで三拍子、つまりはワルツの事もないかしら。 私:無い。その場合は二拍子が三回、つまりは六拍を基調とした話し方になる。「かなり・おおき・なきの・したで」 君:なるほど。二拍に忠実な話し方となると「かなり(休)・おおきな・きのした・で(休)」 私:つまりはフットは拍数の多い単語を分断したり、文節にまたがる事もある。 君:これは英語も同じね。つまりはフットは単語を横切る事もあるし、文節にまたがる事もあるわね。 私:その通り。 This is the boy I met yesterday morning. 先ずは文節に分けてみよう。 君: This is/ the boy /I met /yesterday morning. ほほほ、これは簡単ね。中一レベルだわ。 私:その通り。文節構造の理解は中一レベルだ。ただしフット、つまりは発音というか英語のリズムで分けると This is the/ boy I met/ yesterday/ morning. これは三拍子、ワルツのリズムになっている。 君:定冠詞と名詞が分断されることの意味は日本人の英語の初学者には理解不可能だわね。 私:たかがフット、されどフットというべきか。これは、日本人が英語をスラスラと話せないのはなぜか、とか、日本人が英語を話そうとしてもとちってしまうのはなぜか、というようなメタ言語学というか英語教育学のテーマになっているくらいだ。興味深いね。完全にフットをマスターし、すらっと英語が出てくるなら話すのも楽しいし、かっこいい英語という事になる。日本語のどの方言も二拍を基調としたフットになっているので比較的簡単にマスターができる。フットの理解は休拍の使い方のマスターと同意語とも言える。英米人も well, whmmm, oh my, oh my god, oh my goodnes etc を上手に使ってフットを整えたり、リセットしたりして話している。 君:それは日本語も同じね。えっと、ええっと、うむむ、などの間投詞でフットをリセットするのよね。ほほほ |
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