大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

かがのががのかが

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私:今日のお話しは鼻濁音について。このコーナー、つまりは飛騨方言の奇妙な言い回しのコーナーも随分と久しぶりだな。十年来以上かな。懐かしさがこみあげてくる。
君:懐かしいといっても、当時、どのような気持ちだったか覚えがあるから、という事ね。
私:その通り。当時の日別アクセスだが百を優に越していて、方言ブームにあやかっていたような感じだった。星の数ほどの方言サイトの番付のようなものもあって、方言サイトのランキングも盛んだった。つまりは総アクセス、日別アクセスの番付という事。早い話が如何に面白可笑しくおらがお国言葉を紹介できるかという技量が問われた時代であったので、全国ランキングで百傑入りしてからは僕もつい名誉欲にかられて、飛騨方言を駆使したダジャレを考える日々だったな、という事を思い出してしまった。
君:今日はどんな風の吹き回し。
私:ひとつには、僕にだってまだまだダジャレを作る頭はしぼんではいないのでは、という事で、もう少し能力を開花させたいと思った事だ。
君:ほほほ、という事でちょいとしたお遊び心が首をもたげてきたという事ね。では、早速に表題のお答えをお願いね。
私:うん。答えは「加賀の画家のおかみさん」だ。
君:ほほほ、鼻濁音を問題にするなら濁点ではなく、半濁点の表記が必要じゃないかしら。
私:うん。ではそのあたり、つまりは表記についての議論から。所謂、濁点の表記は簡単だ。キーボードに向かって「がぎぐげご」と打鍵すればいい。半濁点、つまり丸は丸でも文字の右上につく丸だが、半角文字表記が無いので全角「゜」で表記するのが普通。従って表題は厳密には「かか゜のががのかが」という事になる。
君:飛騨方言は鼻濁音のある地方だから加賀を鼻濁音で発音するのよね。
私:そう。そして飛騨方言では語頭以外のカ行は濁音化するのが普通。つまり「がか画家」は「がが」、「かかぁ妻」は「かがぁ」という訳だ。
君:語頭は濁音化しないのよね。
私:元々がガ行濁音の語頭はそのままガ行濁音、そして元々がカ行清音の語頭はそのままカ行清音と言う音韻規則だ。
君:地元の方々には実に簡単なルールでも、全国の皆様にはあれこれ、具体例をお示しになったほうがいいわよ。
私:そうだね。他の例としては「さか坂」は「さが」になる。「さく柵」は「さぐ」になる。「さけ酒」は「さげ」になる。「さこ迫」は「さご」になる。
君:「さこ迫」について説明お願いね。
私:うん、山国飛騨では最重要単語。谷は水が流れるが、雨の時以外は水が流れていない枯れた谷が「さこ迫」だ。山肌のくぼみといってもいいだろう。つまりは隣地境界。
君:飛騨方言は鼻濁音の地方だから「区議会」は「くき゜かい」と発音するのよね。
私:その通り。ところで、今の僕はかつて小学生読者層を相手に飛騨方言のダジャレを書いていた僕ではない。半濁点の歴史を語ろう。
君:へえ、歴史ね。
私:半濁音と言えば普通はハ行。「ペット」「ぴりっとした寒さ」「いっぷう変わった人物」等々、初等教育で教えられる。四歳になる孫が既に仮名を自在に読めて、そして書く事に夢中だ。おじいちゃんはそんな孫が可愛くて仕方ない。
君:大西家の歴史はさておいて。
私:やや、失礼。半濁音の符号が現れるのは近世初期のキリシタン文献にみられるのがもっとも初期の例だ。その一方、濁点の歴史は格段に古い。由来は漢文の訓点。もと声調を示すために付けられていた声点(しょうてん)が読みの清濁を区別するようになり、その際の濁音を示す「‥」が鎌倉時代ころから仮名にも適用されて濁点のもとになった。まとめると平安には濁点・半濁点の表記なし、鎌倉から仮名濁点表記が誕生し、そして江戸から仮名半濁点表記が加わる。古代から音韻はあまり変わっていないはずなのに実は表記が無かったという事。現代人の我々の感覚からすると恐るべき不自由さだよね。昔の人は偉かったんだなあ。日本という国が漢字文化でスタートして以来、漢文を読み書きできない奴は馬鹿にされた時代が続いた。昭和の生まれでよかった!(^_^)v ヴィ
君:漢文が英語に変わっちゃったのね。それはさておき、ハ行音はPから始まったのに、表記の確立は随分と遅かったのね。
私:その通り。「P音考」だね。不思議で仕方ない。ガ行の半濁点、つまりは鼻濁音についても何時の時代からなのかね。先ほどは金田一春彦著「日本語音韻音調史の研究」に当たってみたが、記載なし。上田先生、金田一先生にとっても興味の対象だったと思うんだけどなぁ。蛇足ながら、アイヌ語のカタカナ表記の特定のカタカナに半濁点をつけるそうな。「ト゜」、これは「トゥ」に近いような音韻らしい。また江戸時代の洒落本・滑稽本・人情本などに半濁点表記がある。「おとつさ゜ん」、これは小学校教師が生徒に「おとっつぁん」と教えるんだろうね。半濁点もあれこれ、考えると楽しい。
君:やめなさいよ。四歳のお坊ちゃんには半濁点表記はパ行だけを教えればいいのよ。それ以外は教えちゃ駄目よ。
私:ははは、教えるもんか。君をちょいとからかったた゜。
君:・・・わかった。言いたかった事は「からかったんだ」でしょ。
私:然り。飛騨方言においては「かか゜のかが」は「加賀のおかみさん」、「かがのかか゜」は「おかみさんの加賀」。ぶふっ

君:をこ也。

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