大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 歴史

類聚名義抄

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私:今夜は国立国会図書館デジタルコレクションに一般公開されているこの本のお話でもしようか。
君:アクセントのお話ね。その前にまずは読みをお願いね
私:るいじゅうみょうぎしょう。
君:その意味は。
私:「類聚」+「名義」+「抄」。類聚は漢語。事物を集め分類編集する事。「るいじゅ」とも言う。「類聚す」はサ変動詞。名義とは名前・語義、抄とは注釈書・解釈書の意。類聚名義抄は御一条朝から堀河朝にかけて、つまり十一世紀末、平安時代の漢和辞典だ。
君:アクセントとの関係についてお話ししてね。
私:ほいきた。同書は漢和辞典だが平安時代は現代の当用漢字の時代と違って無茶苦茶に漢字が多かった。だから学者さんが漢文を研究するにしてもお坊さんが経典を詠むにしてもこのような書が必要だった。そして最も大切な事だが、その漢字の意味を片仮名表記にて記した事と、その片仮名にはなんとちっちゃな点(星点)が譜記されていて、それが当時の京言葉のアクセントを意味するらしい事が発見されて、なんと漢和辞典というよりは平安時代の日本語アクセント辞典である事がわかっちゃったんだよ。星点は圏点、短線とも言うが、取り合えず星点に統一しておこう。
君:どうして星点がアクセントの表記だという事がわかったのかしらね。
私:ははは、星点の挙動が現代の京言葉のアクセントとほとんどピタリ一致しているから。つまり、現代の京都アクセントは平安時代に誕生し、完成し、そして一千年の時を経た今もびくとも変化していないという事だ。
君:なるほどね。でも実際の平安時代の話言葉を聞いた人は誰もいないから、信じたくない人は信じないかも。
私:うん。それもごもっともな考えだ。だが古典として残る日本の漢和辞典は類聚名義抄だけではない。
君:例えば。
私:「中右紀」「法華経音」「諸家点図」「郡書類聚」「古点図」「続々郡書類聚」「真俗二点集」等々、数多くの辞典が星点記載だ。星点はアクセント表記に違いない。ただし(ししやう)四声点図と六声点図に代表されるようにバリエーションがあるのも事実。中央のアクセントは微妙に変化しているのも事実。こうなってくると極めて微妙な話になってしまい、学者の飯のタネになる。
君:つまりは国学の問題というわけよね。
私:その通り。これを調べ尽くしたのがザ・アクセント男の僧契沖。続いて昭和の時代に骨の髄まで嘗め尽くしたのが金田一春彦先生だ。金田一春彦著「平曲考」はあまりにも有名。
君:平曲って琵琶法師が平家物語を琵琶の伴奏に合わせて節をつけて語る芸能じゃないの。
私:そうだね。実は金田一春彦先生は琵琶の名手なんだよ。
君:あらら、そういう家柄だったのかしら。京都のご出身かしら。
私:何いってやがんだい。彼は東京帝大教授・金田一京助氏の息子さんだぜ。チャキチャキの江戸っ子に決まってるだろ。帝大が橋本進吉教授の時代になり、春彦先生は進吉先生から、契沖に続いてアクセントをおやりになったらどうかね、と言われて、はい・やります、ってな感じで類聚名義抄にはまり、ついでに、そうだ・琵琶法師になろう、と思い立って琵琶をお始めになり、平曲と類聚名義抄の知識のコラボが「平曲考」として出版された。残念ながら絶版。別著・吉川弘文館「日本語音韻音調史の研究」を古本で手に入れて「平曲考」のアウトラインをつかむ事が出来た。平家物語の文学論は日本文学の大事なテーマ。小林秀雄ら文学者を魅了し続けた。源信・往生要集の祇園精舎の行は高校生なら誰でも知っている。そんな中で琵琶を弾きアクセントを研究したのは金田一春彦先生だけ。平曲は代々、語り継がれ、抑揚は平安当初から一切、変わっていない。ここに彼は目を付けた。着眼点が違う。
君:それはご苦労様。京の都一千年のアクセントの歴史をたちまちにご理解なさった春彦先生なら全国の方言アクセントの解析など朝飯前よね。
私:そう。内輪・外輪理論だな。全国48都道府県のアクセントを一つの理論でまとめる。国語に関しては天才肌のおかたというべき。然も琵琶の名手。僕は実は中二の時にギターを始めて既に半世紀以上だがアルペジオがやっとで、とても人前で披露できるような腕前では無い。楽器を間違えたようだ。67歳になるが、今からでも遅くないかも、琵琶法師を目指そうかな。
君:おやめなさいよ。入門させてくださる所なんてないわよ。
私:そうだね。第一に琵琶のCDを一枚も持っていない。ロックばかりだ。
君:まずはユーチューブがいいわよ。
私うん。

うーん、小泉八雲の耳なし芳一だ。悲しい音色。泣けるね。でも渋すぎる。テンポも遅いし。僕の性には合わないかなぁ。やはりビートルズだな。
君:あら、もっと曲があるでしょ。ビートルズ世代さんなら全曲を飛騨方言で訳してみたらどうかしら。
私:中学生時代が懐かしい。毎日、弾いていた。高校になってギターはやめて受験に専念した。大学以降は留学を夢見て英語のマスターと医学論文に専念した。ギターを再開したのは十年ほど前からだ。
君:ほほほ、琵琶の入り込む余地は無いわね。

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