大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 音韻学 |
やけび(=やけど火傷) |
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私:「やけど」と言う意味で飛騨方言では「やけび」という。更には「やきび」ともいう。アクセントは共通語と同じで平板。 君:全国的に珍しい音韻変化かしら。 私:その通り。俚言のような感じですね。山形方言に「やけびっつ・やけひっつり」というのがあるようだが。 君:まだるっこしいわね。何が言いたいわけ? 私:現代語では「やける・やく」の自他対動詞だが、言海・大言海あたりに「やける」が出てこない。古語辞典では四段他動詞「やく」と下二段自動詞「やく」がある。つまりは終止形は同一だが、連用形(つまりは名詞)になると、「やき(焼く事)」、「やけ(焼ける事)」の違いになる。瀬戸焼は他動詞の名詞化であり、夕焼けは自動詞の名詞化。 君:つまりは「やけど」は皮膚が焼かれる事の意味で自動詞的な言葉だといいたいのね。 私:その通り。「やけど」の語源は「焼処」。「と処」は場所を意味する「と」が連濁で「ど」になったもの。他の例としては「ふしど臥所(万葉14)」、「ねど寝処(万葉3489)」。「やけど」の語源は「やけた場所」という意味であって、「焼いた場所」ではないんだ。 君:「やきど」という言葉があるとすれば、これはもう他動詞そのものという事で、火葬場などがそうよね。 私:古語「やけど」が飛騨ではいつのまにか「やけび」に音韻変化した。「やけ」+「ひ火」からの発想じゃないかな。更にこれが「やきび」に音韻変化したという事じゃないかと思う。 君:ほほほ、あなたの意図がみえてきたわ。上代から中世・近世に至るまで「焼」の一文字で記載されてきた動詞だけれど、実は自他があったものの、仮名交じり文でこれを区別するようになったのは近代ね。 私:「やける」は、恋焦がれる・嫉妬する、の意味で上代から用いられてきたが、浮雲・二葉亭四迷や二人女房・尾崎紅葉あたりから「やける(嫉妬する)」の言い回しが出てくる。 君:日本語の歴史という観点からは意外と最近。 私:「やけぼっくい焼棒杭」の言葉は江戸の人情本なんかだな。「やけひばし焼火箸」が出てくるのは、吾輩は猫である。 君:どう考えても「やきび」から「やけび」になった可能性は無さそうね。ところで、やけぼっくり、という誤用があるけれど、まつぼっくり(松ふぐり)、からの連想よね。 ほほほ |
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