大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
呑気・気楽 |
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私:飛騨方言における呑気・気楽を表す語彙を羅列してみたい。 君:要は感情語彙ね。喜怒哀楽の喜。 私:そう、喜の感情の中でも、心が癒される・ほっこりする、という意味合いの言葉。 君:呑気・気楽と言う語彙は共通語のニュアンスがあって、あまり使われないのね。 私:そうだね。人を家に招き入れる時には「気楽にしてください」ではなく「あんき安気にしてください」と言うのが普通かと思う。また例えば、外でハードな仕事をして帰宅した際には家人に向かって、或いは独り言で「ああ・うちはあんきや」と言うのが普通。 君:他には? 私:形クあんじない。こちらの語源は案事無だね。あれこれ思案する事・思い悩む事が無いという意味。何も考えずぼーうっとリラックスする事。全国共通方言で江戸語でもある。 君:なるほど、二つね。飛騨方言とて探し出せばもっとあるでしょ。 私:勿論ある。あんじゃない、さしつかいない、ずさいない、だいじない、だじない、だじゃない、どーさない、どさない、どーもない、どもない、どってこたない、どんねもない、なんのこたない、べんかん。これらは全て飛騨方言だ。一部は全国共通方言。 君:感情語彙というものも書き出せば結構あるわね。語源もなんとなくわかるわね。 私:だいじない、は、大事無、つまりは大きな心配事がない、という事だね。どーさない、は、造作のない事、つまりは簡単に易々と物事を進める事の出来るさま。どんねもない、は、どんなにもならない、つまりは間違った方向に行かず必ず正しい方向へ向かう、というような意味だ。名詞べんかん、については俚言につき、語源は不明と言わざるを得ないが、あんかん安閑、あたりの音韻変化じゃないのかな。 君:飛騨ではよく「らくにしてください」と言わないかしら。 私:ああ、いうね。「正座なんかしないで足を崩してください・胡坐をかいてください」という意味だと思う。 君:大事、造作、案事、どれも大変な努力で克服しなければならない困難事という意味なのよね。 私:そう。そういうものが無いから、呑気・気楽という事になる。 君:私、今、気づいたわよ。 私:えっ、どういう事? 君:否定の助動詞「ない・ぬ」には明瞭な東西対立があり、東京が「いけない」、大阪が「あかん」。飛騨って西側でしょ。 私:なるほど。でもそれは動詞の世界の事だな。今回の語彙は全て形容詞だ。大阪でも「赤い・高い」のように、語幹がア段で終わる形容詞連用形に「ない」が付き、「アカナイ・タカナイ」と言う事がある。新方言「うもうない(美味くない)」とか。 君:つまりは江戸言葉でも、だいじねえ、あんじねえ、ぞうさねえ、と言っていたのよね。 私:ははは、ご名答だ。講談社・江戸語大辞典に記載がある。つまりは、大事、造作、案事、これらは共に近世語で江戸語。飛騨方言はその残滓というわけ。然も飛騨方言のアクセントは純東京式、つまりは江戸っ子アクセントだしね。語源の探索は容易という訳だ。 君:語源の謎解きは造作のない事ね。ほほほ |
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