大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

正月の歌

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追記 (2021.1.21)

先ほどですが、偶然に歌を発見しました。歌詞は以下の通りでしたが、古くに飛騨の村々で歌われていたわらべ歌ですから、時代の流れと共に歌詞が村々で少し変わってきたという事のようですね。「正月ぁええ」については格助詞「は」の子音の後退、ぶくりはポックリの事で、それの歯ですからつまりは四角く切った切り餅の比喩である事は書かずもがな。肝心なのは歌の心ですが、飛騨地方は高山盆地と古川盆地にはまとまった平地があるものの、その他の村々は山また山にて人々が十分に豊かな生活をするに足りる田が少なく、実は稗(ひえ)が主食の時代が戦前まで続いていたのでした。大規模な土地改良によりコメの自給自足が達成されたのは戦後の事。つまりは米は飛騨においては主食たりえず、貴重な特別な食糧、それを原料とする餅を食べられるのは正月に限る、という事で何とも早、悲しい歌ですが、飽食の今の時代に我々はお餅一つでどれだけの幸せを感ずる事が出来るのでしょうね。

正月ぁええ、盆よりええ
ぶくりの歯のようなあっぽ食べて
あたまの毛のようなコブ食べて
雪のようなまんま食べて
赤いべべ着て羽根ついて
正月ぁええ、盆よりええ


追記 (2005.4.30)

旧高山市で歌われた歌ではなく、飛騨地方で広範に、あちこちの村々で歌われたわらべ歌のようです。また、歌の題名ですが、"正月ぁええ"といういう名前で親しまれている部落がありますが、飛騨各地でいろんな呼び方があるのかも知れません。肝心なのは歌詞ですが、ひとつ、完全版をご紹介しますと

正月ぁええ、盆よりええ
ぶくりの歯のようなあっぽ食って
白いまんまにととそえて
髪の毛のようなこぶ食って
正月ぁええ、盆よりええ

ぶくりとは木下駄のような履物、それの歯というわけですから"まあるいおおきいあっぽ"との佐七のうろ覚え歌詞はおそらく間違いです。つまりはあっぽ(=もち)の形が四角い事を木下駄の歯に例えています。飛騨方言ぶくりはふぐの意味で用いる地方が多いようですが、実は鳥取方言では飛騨方言と同意で用いるようです。

さて、正月だからもちも食べられるし、白いまんまも食べられるという事の意味ですが、子供だからつい無邪気に歌うこの歌も、その昔、山国飛騨では田んぼの作付面積も少なく、稲作技術も進んでおらず、日ごろは米は飢饉に備えてある程度の量は必ず蓄えて、常食とは出来なかったという歌の意味です。ひえ(稗)、あわ(粟)、麦などを、少量の米を混ぜて、否、混ぜる事もあるいは無く、常食としていたのでしょう。

お盆のような祝日ですら米ご飯を控えていたという歌詞に当時の寒村の生活ぶりがおもんぱかられますが、お正月だけは、米、餅を食べられる事に付け加え、山国にはるばるやってきた海の幸も食べる贅沢を味わうことが出来るという、至上の幸福を味わえる正月をたたえるわらべ歌という事になります。
突然思い出しました。高山に古いわらべ歌がありました。とうに他界したお袋の祖父母ですが、旧高山市の昭和町に住んでいました。私が、おそらく小学二年か三年の時ですが、正月に遊びにいって、ほうびに少年雑誌 ( といえば当時、"少年王"、"ぼくら"、"冒険王"などの月刊誌のいずれかですが ) を一冊買ってもらい、早速読みふけっていた所、記事のひとつがなんと、高山のわらべ歌。私はびっくりし、
"ばあちゃん、これ、ここ見てみないよ。ここに飛騨のわらべ歌って紹介されとるぜ。おりゃ全然知らん歌やし、大西でゃ歌わんのやさ。"
と、尋ねると
"どりゃどりゃ、おうおう。こりゃ懐かしい歌が載っとるな。ばあちゃんが子供んどきに、よう歌ったさ。そしゃ歌うさ。"
と答える祖母。

正月ぁええ、盆よりええ
赤い鼻緒のじょりはいて
まあるいおおきいあっぽ食べて


と、まあこのような歌詞でしたが、出だしの記憶は正確ですが、続く二行、三行めは、やや自信なし、字句が多少違っているかも知れません。あっぽ(=餅)が先で、じょり(=ぞうり)が後だったかも知れません。

なにぶんにも私の人生でたった一度、その時しか聴いた事がなく、大西の村には無い歌です。旧高山市街で歌われていた歌なのでしょうか。ネット情報も皆無に等しい中、一件だけヒットしました。www2.ocn.ne.jp/~jupiter6/diary/monthly/2001/August2.htm Coffee Break 残念ながら Coffee Break さんも私と同様、記憶が定かではないようです。がしかし、このような古い歌があった事は疑うべくもありません。

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