大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 心の旅路

富山 だいてやる(=おごってやる)

戻る

私:昨日のNHK番組・ブラタモリで富山方言「だいてやる(おごってやる)」が話題になっていた。
君:パワハラ発言という事よね。
私:男性の上司が若い女性の部下に夕食をおごる。ここまでは良し。
君:そしてお会計の時に上司が女性に『今夜は僕がだいてやるよ』とおっしゃるのね。
私:そう。彼は生まれも育ちも富山のご出身で、つい富山方言が出た、という事なのだが。
君:東京のご出身の女性は「食事の後は大人の時間、意味はわかるよね」という意味かと勘違いして恐怖におののく、というストーリーね。
私:そういう事。方言笑い話だが、方言学のキーワードが二つある。
君:と言っても、ピンと来ないわ。
私:いきなり答えだが、サ行動詞のイ音便(サ行イ音便)と全国アクセント分布図。
君:サ行イ音便について説明お願いね。
私:これは簡単。富山方言「だいてやる」は共通語では「出してやる」、つまりは「お金を出してやる」という事で、この場のお勘定は私が持ちます、つまりはおごらせてください、という意味なんだ。
君:ほほほ、そうだったのね。共通語を使えばよかったというだけのお話なのね。
私:飛騨地方もサ行イ音便の地方なので、アマチュア方言家という以前に、飛騨地方でも「出いてやる」というので、放映を見ていて僕はすぐに気づいた。
君:なるほど。ここに更なる悲劇、アクセントの問題が生じたのね。
私:その通り。「出す」は頭高、「抱く」は尾高。
君:つまりは東京式アクセントではあべこべ。ましてや「出して」「抱いて」は聞き間違えるべくも無いわね。
私:そう。飛騨も東京式なので「出して」も「出いて」も頭高。従って頭高「出いて」と尾高「抱いて」を聞き間違える事は絶対にない。
君:なるほど。富山は京阪式アクセントで「出す」も「抱く」も尾高、つまりは「出いて・抱いて」は同音かつ同アクセント語というわけね。
私:その通り。北陸地方は京都に近く、近畿アクセント圏だ。ところが飛騨は東京式アクセント圏。富山市と高山市は目と鼻の先だが、アクセント圏という観点からは超えがたい溝があるという事。今回の笑い話の本質は、同音かつ同アクセント語は聞いただけではわからない、という事。
君:つまりは同音異義語の問題なのであり、場面によって、つまりは文脈によって両者を弁別しなさい、という方言問題だったという事ね。
私:そう。天下のNHK番組なので、この辺の方言からくりについては番組内でお示しいただきたかった。
君:残念ながらそうではなかったと。
私:そう。富山では「奢ってやる」という意味で「抱いてやる」と言う、というような展開になっていたのは残念というしかない。
君:だそうです、NHK様。
私:返す返すも残念だ。せっかくの方言のお話だったので、国語学的解釈が欲しかった。
君:せっかくNHK富山が番組に富山方言を出いたのに。ほほほ
私:でも、悪い事ばかりではない。
君:どういう事?
私:家内も私と一緒に番組を観ていた。
君:それで?
私:富山方言が話題になるや、家内が私に言った。「ほら、あなた、方言よ!」
君:ほほほ、旦那様想いの奥様ね。
私:ああ。僕は瞬時にサ行イ音便とアクセント問題という事に気づいて家内に教えてやった。
君:それで奥様はあなたを見直してしまわれたのね。
私:恥ずかしながら。「これでネタがひとつ見つかってよかったわね」と喜んでくれたし。家内は本当に無邪気で可愛い人なんだよ。
君:まあ、共著者じゃないの。ぬしさん左七君へ、私の出る幕じゃないわね。ほほほ

ページ先頭に戻る