鏡花水月 4



屯所の自室へと帰りついた瞬間。
安堵と共に込み上げてくるのは吐き気―――いつもならば。
けれども今日に限っては、代わりに笑いが込み上げてきた。
不思議な気分だった。思い出すだけで自然と笑みが浮かんできてしまうなんて。
今日も高杉は私の元へとやってきた。いつもの行為、いつものやり取り。ともすれば単調になりかねないほど、同じ事の繰り返し。帰る高杉を見送って、どれほど経った頃合だったろうか。
少し休もうか、それともさっさと帰ろうか。鏡の中の自分と相対しながら迷っている最中、突然開かれた部屋の襖。
前置きも何も無い出来事に驚いて振り向けば、そこに立っていたのは今し方見送ったばかりの高杉晋助だった。
何をしに戻ってきたのだろう。
無言のまま疑問の表情を投げかけると、意図はどうやら伝わったらしい。「忘れ物をしたんでな」との答えが返ってきた。
忘れ物なんて、あっただろうか。
不思議に思いながら部屋を見渡してみるも、それらしいものはすぐには視界には入ってこない。
その間にも、高杉は遠慮も何も無く室内へと入ってきた。とは言えこの男が何かに対して遠慮や躊躇といったものを見せる様なんて、どうやっても想像できないのだけれども。
何を忘れたと言うのだろう。
すぐ傍まで歩み寄ってきていた高杉を見上げると、普段と変わらぬ皮肉げな笑みを浮かべたまま屈み込む。
視線の高さが同じになる。間近に迫る顔。縮まる距離。
そして、重ねられた口唇。
軽く触れるだけの、何のことは無い口吻け。
意図がわからない私は、再び疑問の表情を投げかける。けれども返ってきたのは「説明させんじゃねーよ」との言葉だけ。
ふいと逸らされた視線。けれども私は気付いてしまった。その顔が少しではあるけれども赤らんでいることに。
照れているのだろうか。この男が? どういう理由で?
途端に思い浮かんだ答えは、とてもではないけれどもこの男には似つかわしくはないものだったけれども。
なんて気障ったらしい―――別れの口吻けが、忘れ物だなんて。
普段であれば、馬鹿じゃないのか、なんて一言で切って捨てる行為ではあるけれども、この時ばかりは知らずくすくすと笑みが零れてしまった。
自分から仕掛けておきながら、照れて顔を背けるなんて。まるで背伸びしたがっている子供のようだ。
私に笑われたのが気に入らなかったのか、結局不貞腐れたまま高杉は帰ってしまったけれども。
本当に子供のようだと、思わず笑ってしまう。
過激で危険な攘夷浪士という認識を改めなければならないだろうか―――もちろんそれは冗談で、普段は狂気を孕んだ思想を掲げ暗躍してることなど、百も承知の上だ。
それでも、時折垣間見る表情があの男の本当の姿なのかもしれないと、そう思わずにはいられない。
危険な思考だと、わかっている。
私は真選組の人間で。高杉は掃討すべき攘夷浪士で。今のこの関係は私にしてみれば、単に情報を得るためだけのもの。そうでなければならない。
私の全てはあの人の、副長のためにあるべきもの。私が生きる理由も意味も、全てはそこにあるのだというのに。
わかっていて尚、温かな腕を、優しい指先を、私は拒絶することができずにいる。どころか、すんなりと受け入れている自分が、確かに存在している。
その事実に今更ながらに気付き、愕然とする。
どうして。どうしてこんな―――
ぶるり、と寒さ故ではない震えが身体を走る。制御できない自身の感情に恐れを感じたのか、それとも何か予感するものがあったのか。どちらにせよ曖昧なものに変わりは無い。
今日はもう休もう。明日になればきっと、この曖昧な何かも消えてしまうに違いない。
とうに日付は変わり、深夜の静寂が世の中に満ちている時間。こんな時間だからこそ、余計な事まで考えそうになるのかもしれない。
それはまるで根拠の無い考えではあったし、単なる逃げでしかないことはわかっていたけれども、今悩んでみたところでどうしようもない事でもある。
布団を敷き、寝支度を整えたところで、不意に部屋の外に感じる気配。こんな時間に誰だろうか。
 
「いるんだろ? 開けろよ」
「副長!?」
 
部屋の外にいる人物の正体がわかった瞬間、嫌だと思ってしまった。
会いたくない。今だけは、会いたくない。そう思ったのだ。私にとっては唯一無二の存在であるはずの、この人に対して。
何故だろうか。
理由は簡単。見透かされるに違いないからだ。この揺らぐ感情を、確実に見抜かれてしまうだろうから。
―――ああ、そうか。揺らいでいるのだ、私は。副長と高杉と、対角線上にある二人の間で、揺らいでしまっているのだ。
わかったところで、何がどうなるわけでもない。むしろ明確になった事で余計に落ち着かない気持ちにさせられる。
ますます会いたくない。今だけは、今だけは本当に会いたくない。
それでも、そんな我が侭が通る相手ではないことは、百も承知。少しでも顔を見るのを遅らせたくて、私はのろのろと障子に向かう。その些細な抵抗には、何の意味も無かったわけだけれども。
障子を開けると、「入るぞ」と私の許可を得ることもなく副長が部屋へと入ってきた。この時間にまだ隊服を着ているということは、今の今まで仕事でもしていたのだろうか。
 
「……どうしたんですか?」
 
パタン、と障子を閉めたまま、振り向きもしないで尋ねる。
入ってくる一瞬、部屋の心許無い明かりで見えた副長の表情はお世辞にも上機嫌とは言い難いもので。だからこそ、怖い。嫌な予感に、脳裏で警鐘が鳴る。
知らず震える身体を止めようとぎゅっと自分自身を抱きしめてはみたけれども、効果があるとはとても思えなかった。
さりげなく聞いたつもりの声が震えていたことに、副長は気付いただろうか。
気が遠くなりそうな程に長く感じた沈黙は、実際には短い時間に過ぎなかっただろう。
先にこの居た堪れない沈黙を破ったのは副長の方だった。
 
「今日もヤツに抱かれたのか?」
 
途端、どきりと心臓が脈打つ。
知っているのだ、副長は。
どこからどう伝わったのかはわからない。けれども知っているに違いない。私が高杉と接触しているのを。
早鐘のように打つ心臓に、酸素が足りず息苦しささえ覚える。
これから何が待ち受けているのだろうか。不安と恐怖が入り混じる中、無駄と思いつつも誤魔化せないだろうかと私は口を開いた。
 
「何の、ことですか……?」
「シラ切ってんじゃねェよ。高杉の野郎だ―――今日で何度目だ?」
 
やはり無駄だった。きっと副長は全て知っている。知った上で、私の口から話させようとしているのだ。
一体、なんと答えればよいのだろう。
うるさい程の心臓の音に邪魔されて上手く思考が働かず、言い訳を考えることすらできない。
言い訳などしたところで、この人に通用するとも思わないけれども。
 
「答えられねェなら質問を変えてやろうか―――ヤツに惚れたのか?」
―――っ!!?」
 
弾かれたように振り返る。
違う、と。そんなことは無いと、即答しようとしたのに。
言葉が喉の奥に閊えたまま、出てこようとはしない。
口にしようとしても、あの腕が、口唇が、温もりが……あの男に関わる記憶の全てが、その言葉を口にする事を拒絶する。
本当に違うのに。惚れてなんか、愛してなんか、いないはずだというのに。
それでも高杉のことを拒絶しようとしても、それを許そうとしない私がどこかに存在している。
どうして―――再度自問したところで、答えなど出るはずもなく。
副長の問いに答える術を持たないまま、私は黙りこくるしかなかった。
 
「否定、しねェんだな」
「…………」
「……男なら誰でも良かったって事かよ」
 
苛立ちの滲む声に、私は反論することができない。
できる事ならば反論したい。そうではないのだと訴えたい。けれどもその私の意思に反して言葉が出てこないのだ。喉の奥が痛いほどに乾いて。
縋るように目を向けたけれども、すぐに無駄だと悟る。薄明かりの中のその表情には、私の心情を汲み取ってくれそうな余地は欠片も存在していなかった。
 
「だったら……何だって、よりによってあの男を選んだんだよ、テメーは!!?」
 
選んだとは、どういうことだろう。
その意味を掴めないまま、ぐいと掴まれた手首の痛みに顔を顰める。
痛い、と抵抗する間もなかった。
重ねられた口唇に、悲鳴も何もかもが飲み込まれる。咄嗟にもがいた身体も易々と押さえ込まれて。抗えず、口内を蹂躙されるのを従順に受け入れるしかなかった。
この人に口吻けられるのは四度目だ。
かさついた口唇と、鼻腔を擽る煙草の匂い―――たった三度。高杉とは幾度口吻けを交わしたかもわからないというのに、それでもこの感覚を忘れる事はできなかったらしい。
こんな状況だというのに、未練がましい自分を見つけて呆れてしまう。
けれどもそんな感傷に浸る暇があったのはほんの一瞬。
引き離されたかと思うと、我に返るよりも先に乱暴に突き倒されていた。敷いてあった布団の上へと。
呆然と為されるがままになる私の背筋に、ぞくりと震えが走る。
倒れこんだ私の上へと覆いかぶさってきた副長のその眼が。鋭い光を放つその眼を怖いと思うものの、それでも目を逸らすことを許されない何かが、そこには存在していた。
 
―――誰でも良いんだろ? なら、俺がダメだって道理は無ェよな?」
 
その言葉も口元に刻まれた笑みも。狂気を孕んだそれらは私の身体を縛り付ける。
動けない私に、副長は再び口吻ける。噛み付くような口吻けと、同時に胸元を弄る手。その行為に恐怖感が震えとなって全身を走った。
嫌だ。違う。こんな事、私は望んでいない。こんな、こんな―――
身を捩っても、強い力で抑え込まれて逃れることもできない。その身体を押し返そうとすれば、片手であっさりと両手を頭上に拘束されてしまう。
 
「抵抗してんじゃねェよ。誰でも良いんだろうが」
「ちがっ……ゃあっ!!」
 
ようやく口にできた否定の言葉を、しかし私は途中で呑み込むことになった。
着物の合わせ目を肌蹴られて露わになった胸を掴まれ、思わず悲鳴にも似た声をあげるけれども、副長はそんな事に構う素振りも見せずに私の胸を乱暴に揉みしだく。
その痛さに咄嗟にあげた制止の声もまるで役に立たない。それどころか、ますますきつく揉まれ痛みが増す。
どうして。どうしてこんな事になっているのだろう。同じ問いがぐるぐると頭の中を回るけれども、この状況で答えなど出せるはずもなく。
ただわかるのは、痛みの中に馴染んだ感覚が入り混じっているということ―――高杉によって散々この身体に教え込まれた、快楽が。
これほど乱暴に扱われていても感じられるものなのか。それとも私の身体がどうかしているのだろうか。そちらの方が可能性としては高いかもしれない。どうにかしていないわけがないのだ、この私の身体が。
不意に胸の先端を強く抓まれ、「ぁあんっ」とはしたなく声があがる。
 
「ゃっ…やめてっ…くださ……ふぁっ、あんっ!」
「やめろだァ? テメーの身体はそうは言ってねェと思うんだがな?」
 
嘲るような声に、悔しくて私は口唇を噛みしめる。
指摘された通り、私の身体は確かに快楽を感じている。我ながらなんて淫猥な身体なのだろうか。泣きたくなる気持ちとは裏腹に、噛みしめていた口唇から耐え切れずに声が漏れてしまう。
押さえつけられ乱暴に施される愛撫だというのに。硬く尖った先端を片方は強く抓まれ、もう片方は舌先で押し潰され。喩えようのない刺激に全身が震える。
執拗なまでに胸を弄られ舐られ、たったそれだけで熱を帯びる身体。
両手を戒めていた手がようやく離されたものの、今の私には抵抗する力など残っていない。自由になった手は副長を突き放すことも受け入れることもできず、漏れる声を抑えようと口元を覆うしかできない。
あまりにもささやか過ぎる私の抵抗に、副長は薄く笑うのみ。胸への愛撫を止めないまま、空いた手で私の寝衣の帯を解いてしまう。
おざなりに寝衣を肌蹴られ、私の身体を覆うのは下着一枚。その最後の一枚も、最早役には立っていない事が自分でもわかる。
強い刺激を与えられるたび、痛いほどに疼く下腹部からじわりと溢れているのを感じているのだから。
そして、そんな事を隠し通せるわけがない。嘲笑う声に、耳を塞ぎたくなる。
 
「無理矢理犯られてるくせに感じてんじゃねーか。こんなに濡らしやがって」
「ひぁ…んぅっ……ぃやっ、やだ…ぁっ!」
「イヤじゃねェだろ。イイんだろ」
 
この淫乱が―――蔑むような言葉に耐え切れず、眦から涙が零れ落ちる。
その言葉に傷つく一方で、それでも私の身体は意思に反して快楽を求めている。副長の言う通りではないか。
下着の上から弄られ、またじわりと下着が濡れる。感じて、そしてもどかしく思っているのだ。下着越しに与えられる刺激に。
もちろん副長もわかっているのだろう。わかっていて、焦らすかのように下着の上からしか触れてこない。
濡れた下着がぴったりと張り付いて気持ち悪い。与えられるのはぬるま湯のような快楽。心地良くも物足りない。
どれだけ焦らせば気が済むのだろう、この人は。一体、どうしたいのか―――
 
「どうして欲しいんだ?」
「え………ひゃぅっ、ぁんっ!!」
「どうして欲しいのか聞いてんだよ。それとも、このままで犯られてェのか?」
 
言うや、下着を横にずらした状態で指を差し込まれる。
ぐちゅぐちゅと中を掻き回され、ようやく直に与えられた刺激に、逃がすまいと身体が勝手に中の指を締め付ける。
それでも、下着を身につけたままという状態に、嫌な錯覚を起こしそうになる―――まるで強姦されているような、そんな錯覚を。
それに近い行為だとは思う。私が望んだ形の行為ではないのだから。
わかった上で。これが最初で最後になる副長との関係を、そんな錯覚のままで終わらせたくはなかった。
 
「ふぁ…あっ………せて…っ」
「あァ? はっきり言えよ」
「ぁっ…脱が、せて…くださ……は…っぁあん!!」
 
自分で口にしてしまった言葉ながら羞恥に頬が熱くなり、涙が滂沱として溢れ出るのを止める事ができない。
これ以上の事を言えと迫られたとしたら、羞恥心で死ねるかもしれない。そう思うほどだ。
意外にも副長は私の願いをあっさりと叶えてくれた。濡れて用を成さない下着を剥ぎ取られ、私は一糸纏わぬ姿にさせられる。対する副長は着込んだ隊服を未だ乱してすらいないという事に、ますます羞恥心を煽られる。
けれども、これで終わりではないのだ。
 
「きゃぅぅっ!? やっ、やめ…っ、やぁあっ!!」
 
恥ずかしさに膝を閉じかけたものの、間に身体を割り込ませられていてはそれも叶わない。
晒された秘部に顔を埋められ、口唇に、舌に蹂躙されるのを止める術は私には無く、羞恥と快感にあられもない声をあげるしかできない。
中に差し込まれた指も舌も、わざと音を立てさせているのか、卑猥な水音がやけに大きく響く。
こんな音を立てさせられているのが私の身体なのだと思うと、恥辱にまた涙が溢れた。
まったく無意味な涙だとわかっていても、止められない。今の副長が私の感情を汲み取ってくれるはずもないのだから。それどころか責め立てる事しか考えていないだろう。秘部の奥にある小さな突起を舌先で探り当てられ、私は思わず制止の声をあげた。
 
「やめっ……っああぁっ! ぁああんっ!!!」
 
止める間もなく一番弱いところを強く吸われ、背中を仰け反らせ私は一際高い声をあげる。
一瞬真っ白になった思考。
達してしまったのだと、視線を中空に彷徨わせたまま、荒い呼吸を整える間もあらばこそ。
 
「ひぁあぁんっ、ぁあああっ!!!」
 
前触れも無く中に押し入ってきたモノに、私は再び高い声をあげた。
すでに声を堪えようとする努力は放棄している。
散々な羞恥と快楽のせいか思考は麻痺し、ただ与えられる快楽に縋ろうとする本能があるばかり。
これが、最初で最後だから。この人に抱かれる、最初で最後だから。
何もかも忘れて、ただ目の前の現実に浸っていたかった。
奥を幾度も突かれ、それでもまだ足りないとでも言うかのように私の腰は勝手に揺れ、足を絡める。もっと、もっとと。そう淫らにねだるかのように。
はしたない、などとは思わなかった。それ以上に欲しかった。気が狂いそうになるほどに。他の男たちに対しては―――高杉に対してでさえも抱かなかった、この欲求。
 
―――名前、呼べよ」
「ぁん…っ、…土、方さ……ん…っ」
「違ェよ。下の名前だ……呼んでくれ、
「ひぁ…っあんっ……と…しろう…さ…っやぁんっ!!」
 
働かない思考。抵抗する気力も無く促されるままに名前を呼べば、霞む視界の中で副長が優しげに笑ったような気がした。
きっと気のせいだろう。そんなはずが無い。
名前を呼んで、呼ばれて。まるで恋人同士のようだと錯覚する、そのせいだ。
でも、錯覚でもいい。今だけだから。今だけ―――
 
「っぁあんっ、やぁっ、ぁああ…っ!!!」
 
最奥を突かれ、中に精を吐き出され。それと同時に再度達した私は、満ち足りた気持ちと同時に物悲しさを覚える。
副長が身を離す気配に、夢の終わりを知らされる。そして突きつけられるのは、対面しなければならない現実。
少しでも余韻に浸っていたくて目を閉じていると、一瞬、抱きしめられたような気がした。これも錯覚だろうか。都合のいい幻想。
けれどもいつまでも夢の中に居られるわけではない。観念して目を開け身を起こすと、副長が冷たい視線で私を見下ろしていた。すでに着衣の乱れはない。私を抱いている時も脱ぎもしなかったのだから、それも当然だろう。
その視線に、現実を知る。
告げられる言葉は、何となく察しがついていた。
 
―――テメーはクビだ」
 
それは予想通りの言葉。
わかってはいたけれども、実際に告げられると衝撃が体内を走る。
打ち捨てられた着物を羽織ることもせず、俯いて肩を震わせる私を、副長はどう思っただろうか。
どうも思わなかったかもしれない。鬼の副長と呼ばれるのは伊達ではないのだ。気紛れに抱いたのだろう女の事など慮りもしないに違いない。
淡々と続けられた言葉に、その思いは確信へと変わる。
 
「攘夷浪士と―――よりによって高杉の野郎と通じてるヤツを真選組に置いておくとでも思ってんのか?」
 
ああ、確かに。傍から見れば私は、高杉と通じているようにしか見えないだろう。
真選組局中法度第二十一条「敵と内通せし者、これを罰する」―――局中法度に背いて除名だけで済ませるのは、最後の情けのつもりだろうか。
そんなもの、必要無いのに。
いっそ殺してくれればいいのに。
愛されているなんて錯覚を抱いた愚かな私のまま、その手で殺してくれればいいのに……
いつの間にか副長は部屋を出て行ってしまっていた。残されたのは私一人。けれどもここももう私の居場所ではない。
たった一人に突き放されただけで全てを失う、何の価値も持てない女。
それでも。そんな女でも。どんな仕打ちを受けようとも。
 
―――それでも、好きなんです。副長……」
 
無理矢理抱かれた、強姦にも近い行為だったというのに。
他の誰に優しくされようとも。愛されようとも。まったく無意味なのだと痛感させられてしまった。
今まで口にした事すらなかった想い。
誰に告げることもなく、伝えるつもりもなく。音にしたところで何の意味も持たない、言葉。
頬を伝い落ちる涙を拭うこともせず、私はその場から立ち上がることすらできなかった。



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