HEAVEN 〜それは建前 本音は隠せ〜 見廻り中に見かけたのは、覚えのある後姿。 いや、覚えがあるわけではない。 後姿など、見た記憶がないのだから。 それでも後姿だけでわかってしまうというのは、一体どういうことなのか。 迷った挙句、土方は声をかけることにした。 先程から、とある店の前を行ったり来たり、覗き込んだりしている少女―――に。 「―――何やってんだ、オイ」 「は、はいぃぃ!!!」 いつかと同じような反応。 だが振り向いたの反応は、その『いつか』とは違うものだった。 一瞬は眉根を寄せたものの、すぐにぱっと顔を明るくする。 「あ、真選組の土方副長さん!」 お久しぶりです、と深々と頭を下げるに、土方もつられて頭を軽く下げる。 にこにこと笑うに、らしくもなく跳ねる心臓。 そんな自分を自覚して土方は舌打ちしたくなったが、それにが気付くはずも無い。 気付かせるつもりもないのだから。 「見廻りですか? ご苦労様です」 「あ、ああ。そういうお前は、こんなところで何やってんだ?」 「え? い、いえ。ちょっと……」 口篭る。 先程までがうろうろとしていた店は、見てみれば携帯電話の店であった。 そのことに、土方は一つに問い質したいことがあったのを思い出す。 「そういえば最近、どうして総悟にメール送ってないんだ?」 「へ? あ、あの、なんで……」 目を瞬かせたに、今度は土方が口篭る。 これを口にしてもいいのかどうか。 以前はからのメールが来るたびに、それをわざわざ見せ付けるかのように、他人の(特に土方の)目の前でメールを打ってみせた沖田。 それがここ最近、御無沙汰である。冗談で「彼女に振られたんですか?」と言った隊士は、沖田の手によって半殺しにされていた。 そんな実情を、目の前のに話していいものか。 だがは、特に返答を気にしていなかったらしい。 自分で聞いておきながら、理由も聞かずに「実は…」と話し出した。 「その…携帯、壊れちゃって……」 「あ? 水にでも落としたのか?」 「……まぁ、そんなところです」 本当のところは、神楽に完膚なきまでに叩き壊されたのだが。 さすがにそれを他人に話すのは、神楽にも悪いと思い、は口を濁す。 若干気になった土方ではあったが、口を濁したのは自分も同じ。あえてそれ以上は聞かないことにした。 「なら、買えばいいだろ」 「それが……その……」 「なんだ。はっきり言えよ」 「……お金が、無いんです……」 しかし、携帯電話を手に入れるだけなら、物によってはタダ同然で手に入る物もあるではないか。 そう言いたげな土方に気付いたのか、は口の中でもごもごと理由を告げる。 「あ、あの、なんて言うか……基本料金を払うだけの余裕が、無くて……」 真っ赤になって、がそれだけを言う。 基本料金など、たかが知れた金額だろう。 そう言おうとして、唐突に土方は思い当たる。 が働いているのは、まるで儲かっていないような万事屋。 となれば、携帯の基本料金どころか、それ以前に給料がまともに支払われているかも疑わしい。 そんな万事屋に、なぜが勤めているのか。 疑問ではあるが、自身に辞める意志が無い以上、他人が何を言っても意味は無いだろう。 とにかく、現時点でそれは、些細な問題でしかない。 それ以上の問題を、さしあたっては解決しなければならないのだ。 そのためには、まずはに携帯を持たせることである。 しかしには、基本料金を払うだけの余裕も無いらしい。ならば誰が出すのか。 導き出された結論に、土方はなぜ自分がこれほど苦労しなければならないのかと、頭を掻き毟りたくなる。 だが、表面上はそれを出さず。 「―――ところで、万事屋としてのアンタに、頼みたいことがある」 それだけをに告げると、土方は咥えていた煙草の火を消した。 11← →13 あまりにも長くなったので、途中で切ります。うひゃあ。 ![]() |