HEAVEN 〜犬も歩けば彼女に当たる〜



来るべき時が来てしまっただけなのかもしれない。
万事屋からの帰り道、溜め息をつきながらは歩く。
その足取りは心なしか重い。
ふと、その足が止まったかと思うと、通り掛かった店の中を覗き込む。
じっと見つめることしばし。そしてまた、溜め息を一つ。
夕暮れ時、通り過ぎ去る人々の中。
一人だけ、そんなの後ろ姿に目を止めた。
 
さん。どうしたんですかィ?」
「っ!? 総ちゃん!!」
 
振り返った目と鼻の先には、いつのまにか沖田が立っていた。
驚くににやりと笑うと、つい今までが覗き込んでいた店の中へと目を移す。
が、途端、その笑みが沖田の顔から消えた。
 
「……引越しでもするんですかィ?」
「あ……うん。ちょっと、ね」
 
が覗き込んでいた店は不動産屋。当然ながら、物件のチラシが何枚も貼ってある。
それを真剣な面持ちで見ていたということは、本気で引越しを考えているということか。
実はは、今住んでいる長屋の大家から、出ていってほしいと言われてしまったのだ。
万事屋の給料は少なく、家賃は滞納しがち。そこへ持ってきての、先日のエリザベス騒動。
今すぐに出ていけと言われなかっただけでも良しとしなければならない。
が、そのあたりの事情を沖田に説明することもできない。されたところで、沖田を困らせるだけだ。
そう考えて曖昧に笑うに、沖田もそれ以上問い詰めることはしなかった。
何となく悟ることができたからだ。
どう考えても儲けの、ひいては給料も少ないであろう万事屋。今の長屋の家賃が払えなくなって、安いところを探しているのだろう、と。
沖田のその予測は、あながち間違ってもいない。
 
「この近くに探してるんですかィ?」
「うん……できればそうしたいんだけど」
 
なかなかいい所は見つからないね、と困ったように笑うに、沖田は胸中でほくそ笑む。
瞬時に脳裏を過ぎった名案。
今、この時を逃したら、万事屋の面々を出し抜くことなど難しいに違いない。
ここでに出会えたのは天の采配か。
僥倖にとりあえず感謝をして、沖田はに笑いかけた。
 
「よければ、俺がいい物件を紹介しやしょうか?」



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オチはまぁ、想像通りですよ。はい。
長くなりそうなので、短いですが途中でブチ切り。