HEAVEN 〜藪をつついて出たものは〜 何故だか最近、隊士たちのやる気がやけに上がっている。 それはそれでいい事ではあるのだが。 それにしたところで、揃いも揃って夜勤をやりたがるというのはどういう事なのか。 隊士たちに問い質しても「何でもない」と言い張るばかり。 が、何でもないわけがないのだ。 理由がわからないままでは、どこか据わりが悪い。かと言って、問い質しても誰も口を割らない。 ならば、行動あるのみ。 思い立ったが吉日とばかりに、土方は腰を上げた。 * * * 「え、ええーっ!? き、今日は副長となんですか!!?」 「あァ? 文句あるのか?」 宿直用の部屋で悲鳴のような叫び声を上げた山崎を一瞥すると、土方は腰を下ろして書類に目を通す。 山崎も諦めたのか、溜息をついている。 そのままどれほど経った頃か。 廊下を静かに歩く音が聞こえたかと思うと、部屋の外で足音が止まる。 何事かと思うよりも先に「失礼します」との声と共に静かに障子が開かれた。 「っ!? !?」 「あ。土方さん。お疲れ様です」 部屋に入ってきたはにっこりと笑うと、手に持っていた盆をテーブルに置いた。 「これ、お夜食に。よろしかったら召し上がってください」 「あ、さんっ! いつもすみません!」 頭を下げる山崎に笑顔を向けると、今度は土方に向かって「お盆は朝になったら取りに来ますので、置いておいてくださいね」と、やはり笑顔のまま言い、頭を下げて部屋を出ていった。 それを見送ってから視線を横に向けると、山崎がでれっとしまりの無い顔で手を振っている。 なるほど。状況はよく理解できた。 つまり夜勤をやりたがる隊士たちの目的は、これなのだろう。 夜中だというのに、わざわざ夜食を持ってきてくれる。 日中は万事屋に行ってしまうに、少しでも会いたくて。会話をしたくて。 それで夜勤をやりたがるのだろう。 真選組隊士ともあろう者が、女一人に振り回されて、なんという体たらくなのか。 「さんって……本っ当、いいですよね……」 未だ障子の方を向いてぽーっとしている山崎が呟く。 一体、何が「いい」と言うのか。 煙草を吹かしながら、土方は山崎から視線を外した。 だが、山崎が言いたい事もわからないではない。 夜食を持ってくるなどという気遣いが自然にできるところや。 朝早くから嫌な顔一つせずに掃き掃除をするところ。 万事屋から帰ってきて疲れていても、そんな素振りも見せずに隊士たちに応対しているところ。 何より、いつもその顔に浮かべている、柔らかな笑顔。 それら全てをひっくるめて「いい」と表現してしまうのだろう。 そんなに、普段女っ気の無い隊士たちが惹かれるのも無理は無い。 無いのだが。 それでも土方は、それが何故だか気に入らない。 しかしそんな土方に気付かないのか、山崎はぽーっとしたまま口を開いた。 「さん……恋人、いるんですかね……?」 瞬間、土方のペンを握る手に力がこもった。 が、努めて平静を装い、「さあな」と何でもないように返答をする。 気を紛らわせるために書類に目を移しても、内容など頭の中には入ってこないのだが。 逆に湧き出す苛立ちを抑えようと、短くなった煙草を灰皿に押し付け、新たな煙草に火をつけ、深く吸い込む。 そんな土方の努力も空しく、山崎は更なる爆弾を投下した。 「いるとしたら、アレですか。万事屋の旦那か、沖田隊長。仲良さそうですし」 「山崎ィィィ!!!!!」 ボキッとペンが音を立てて折れたかと思えば。 山崎が避ける間もなく、土方が胸倉を掴み、殴りにかかる。 「ちょっ、待っ、副長ォォォ!!?」 「うるせェェェェ!!!!」 制止の言葉など聞く耳持たず。 山崎の絶叫が、屯所内に響いた―――かどうかは、ともかくとして。 これをきっかけに。 土方はようやく、自身のに対する感情を認め。 山崎は山崎で、を巡る人物がまた一人増えたことに絶望したのだった。 17← →19 万事屋と副長、隊長が相手じゃ、普通に考えてジミーに勝ち目は無いよなぁ、などと。 失礼極まりないことを思ってみたりする。 いやはや、彼には不幸がよく似合う(笑) ![]() |