HEAVEN 〜正しい一日の始め方〜 万事屋の朝は、決して早くはない。 主である銀時の朝が遅いのだから、それも道理と言えば道理。 しかし、万事屋に通ってくるの朝は、早い。 だから真選組屯所での朝の仕事を終えてから万事屋にやってきても、大抵は銀時も神楽もまだ夢の中。 これが新八ならば文句を言いながら二人を起こすところではあるが、はそうはしない。 くぅん、と鼻を鳴らす定春を撫でて「おはよう、定春」と小声をかけると、極力音を立てないようにして台所に立つ。 そして始めるのは、朝食の準備。 トントン、と響く包丁の音。程なくして、火にかけられた鍋からは味噌汁のいい香り。 いつでも食卓に並べる準備ができる頃。 寝惚け眼を擦りながら、まず最初に起き出してくるのは神楽である。 「おはようアル〜……」 寝起きのせいか、昼間のような元気の良さはまだ見られない。 そんな神楽を可愛らしく思いながら、は一時、朝食を作る手を止める。 「〜…」 何かをねだるような神楽の仕草に、は承知しているとばかりに笑いかけながら身を屈め。 「おはよう、神楽ちゃん」 ちゅっ 神楽の頬に、軽く唇を押し当てる。 それは実のところ、いつもと変わらない、朝の風景。 しかしこの日に限っては、いつもとは異なる要素が一つ。 「お、お前ら、何しちゃってんのオイィィィ!!?」 朝の万事屋にはあまり似つかわしくない大声。 何事かと声のした方に顔を向けたならば、台所の外には、やはり寝起きの銀時が二人を指差して立ち尽くしていた。 普段であれば死んだように半開きになっている目が、今この時に限ってはしっかりと見開かれている。 そんな銀時に対し、はきょとんと目を瞬かせるのみ。 「何って……朝のあいさつ?」 「あいさつって、お前何人!? 日本人の朝のあいさつは違うだろ、ソレ!!」 「……マミーが生きてた時は私、いっつもしてもらってたネ」 甘えるようににしがみつく神楽の頭を、はそっと撫でる。 そのまま銀時に、「だから、ね?」と目だけで伝えたが、しかし銀時は見逃しはしなかった。 からは見えない角度で、銀時に対してニヤリと笑った神楽の顔を。 途端、銀時は直感する。今の神楽の台詞は、決して母親を恋しがってのものではない。単にの気を引きたいがための方便なのだと。 しかしそれを指摘したところで、は信じはしないだろう。 いや、信じようとするかもしれない。が、神楽との板ばさみになって、困らせてしまうことは確実だ。 を困らせることなど、銀時にできるはずもない。 もしかすると、そこまで見越しての神楽の行動だったのかもしれない。 どうやらかなり前から習慣にしていたらしい。何でもないことのようには、「もうすぐご飯できるから、顔洗って待っててね」と神楽を促している。 今日はたまたま早く目が覚めてしまったから目撃してしまっただけ、ということなのだろう。 (羨ましいこと山の如しじゃねーかチクショー) しかしそれは、神楽だからできたことであって、銀時が同じことをに頼んだとしても笑ってかわされたに違いない。 そのあたり、神楽は子供の特権をフルに活用していると言える。 いくら羨ましがったところで、銀時にはどうにもならない―――はずなのだが。 あまりの羨ましさと、寝起きの呆けた頭。これが揃えば、多少のことは不可能から可能へと切り替わる。 単に、後先を考えない行動を起こすだけなのかもしれないが。 「―――なら、ウチの今後の朝のあいさつはコレにすっか」 言うが早いか、銀時はの腕を引く。 たたらを踏みながら引き寄せられたが、何事かを問う間も無い。 ちゅっ 軽やかな音と共に、銀時がの頬に口付ける。 台所に満ちる、一瞬の沈黙。 そして………… 「おはようございまーす」 万事屋にやってきた新八が見たものは。 吹きこぼれる鍋を尻目に、気を失っている銀時と、それでもなお銀時に殴りかかっている怒り狂った神楽。 そして、なぜか定春にしがみついて、耳まで赤くなった顔をその毛並みに埋めているの姿だった。 19← →21 鍋レオンの回とか見てると、神楽もなかなかに腹黒いとは思うのですよ。 でも可愛いんですけどね。妹にしたいなー。 オプションで万事屋一行様がついてきたらもう最高(笑) ![]() |