HEAVEN 〜旨い話には裏がある、はず〜



の様子がどこかおかしい。
以前にもあったことだが、しかし今回はその時とはまた違う様子だ。
ぼんやりと物思いに耽っていたり、銀時の方をじっと見ていたかと思うと目が合った途端に物凄い勢いで顔を逸らしたり。
そう感じるのは決して気のせいなどではないと、銀時は思う。
昨夜告白をしかけた事もあって、もしかしたらあれだけでがこちらの意図を悟り、気にかけているのではないかとも思いたくなる。
が、世の中はそれほど甘くできている訳ではない。
実際の所は当たらずとも遠からずといったその考えを銀時は思考から追い出し、別の可能性を考える。
と言っても、昨夜別れるまでは普段通りだった以上、何かが起こりうるとすれば、それは一ヶ所しかありえない。
本人に問い質したところで素直に回答がもらえるとは思わない。は変なところで頑固だったりするのだから。
しかし原因があると思われる真選組の屯所に行くのは御免被りたい。いくらのためとは言え不愉快だ。
本人に問い質すか、真選組屯所に行くか、いっそ放置するか。
三択の中からあっさりと一つを選び出したのは、単にに構いたかっただけなのかもしれないが。

「なァ、
「え、な、何、どうしたの銀ちゃんっ!?」
 
呼び掛ければ振り向くものの、その様子は挙動不審であること極まりない。
洗い物をする手を止めてこちらを向いたはいいが、やはり目を合わせようとはしない。所在無げに視線を彷徨わせる姿は、何でも無いと言われたところで到底信じられるものではないと言うのに。
 
「何か今日、態度おかしいんじゃねェ?」
「え、そ、そんなことないよっ!」
 
わたわたと手を振って否定するに、嘘をつくな嘘を、と思わず言いたくなる。これほどわかりやすい嘘も無いだろう。
本人は何があったかなど言うつもりがないのだろうが、大人しく引き下がるつもりは銀時にはない。
このままではに何かあったのではと気が気ではないし、何より訳もわからぬまま避けられるのは面白くない。
は逃げ道を探すかのように落ち着きなく視線を彷徨わせているが、勿論銀時には逃がすつもりは毛頭無い。
いつまでも押し黙ったままのに我慢できたのはどれほどだったか。
もともと気の長い方ではない自覚のある銀時はすぐに焦れ、問答無用とばかりにの腕を掴んだ。
 
「何でもないなら、俺の顔見てそう言ってみ?」
 
だが勿論の顔が上がる事はない。
それどころか、途端にビクリと跳ねたその身体に、別に怯えさせたいワケじゃねェんだけどな、と銀時は胸中で独り言つ。
悩みがあっても、周囲に迷惑をかけまいと一人で抱え込むの性格はよくわかっている。だがそれが周囲を余計に心配させているのだと、は気付いていないのだろうか。
何か悩みがあるのならば、誰かに相談すればいいのだ。勿論その相手は自分でありたいという思いはあるが。
 
「それとも、アレか? 俺じゃ頼り無くて話せないってか?」
「そ、そんなことないよっ!!」
 
自虐的かつ打算的な銀時の問いに、反射的には顔を上げて否定する。
のことだから、そんな言い方をすれば否定するに決まっている。そんな銀時の思惑通りに動いてしまっただが、それが銀時の計算の内だとは知る由もない。
ただ一つ、計算外の事があるとすれば。
顔を上げたの目が銀時のそれと合った途端、その顔が真っ赤に染まったという、その点で。
それは一体どういう意味なのか。
の様子に銀時の方こそ驚いてしまい、知らずを掴んでいた力が緩む。
その隙に「あ、わ、私、お買物してくるね!」とあっさり逃げ出されてしまったが、それを追い掛ける余裕が今の銀時には無かった。
目が合った途端に顔を赤らめられては。出せる結論など一つのみ。
そう考えれば、今朝からのの態度も腑に落ちるのだ。
何とも都合の良い話ではあるが、どうしても期待せずにはいられない。
 
「……イヤイヤ、騙されねーよ、俺は」
 
確かに脈はあると思った。だが昨日の今日でこれは、いくら何でも出来すぎであろう。信じる者は救われると言うが、この場合は信じる者はバカを見るに違いない。
しかし万が一。期待が裏切られなかったならば。
その時は一体、どういう態度をとればよいのだろうか。
勿論嬉しい事に変わりはない。変わりはないのだが……それが本当に現実になってしまっても良いものなのか。
些細な事で浮かれていた前日とは一転、現実味を帯びてきた事態に銀時は呆然とするしかできなかった。



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予定ではあと2話で終わる予定なんですが、予定は未定で。ハイ。スミマセン。