HEAVEN 〜たかが無機物 されど無機物〜 銀時はソファに寝転がってジャンプを読み耽り。 新八は買ってきた食材を片付け。 神楽は定春とじゃれ合い。 はのほほんと部屋の掃除をして。 それは、万事屋で繰り広げられる、いつもの風景。 「仕事来ないねー、銀ちゃん」 「あー。世の中、平和な証拠だろーな」 「そうだねー」 『仕事が無い=収入も無い』という図式が成り立つはずなのだが。 そしてそれは、呑気にしていられる状況ではまったく無いはずなのだが。 それでも新八は、の前では「仕事を探しに行け」と銀時に詰め寄るのを憚っていた。 何せこの、『万事屋の仕事が無い=困った人間がいない=世の中が平和』という図式を銀時によっていつの間にか刷り込まれてしまっているのだ。 迂闊に仕事を求めては、まるで自分が、他人が困るのを待ち構えているように思われそうで。 さすがにからそう思われてしまうのは、新八としても遠慮したかった。 「! 掃除なんかやめちゃって、定春と酔いしれ遊ぶアルヨ!!」 「白い壁に堕天使って書いて?」 意味不明な会話を神楽と交わすは、それは楽しそうで。 銀時に騙されているに近いのことがいっそ哀れに思えてきた新八は、せめて彼女にはそれ相応の給料を支払ってもらいたいものだと、銀時に視線をやる。 しかし銀時にしても、に呆れられたり嫌われたり、ということは御免であろう。 ならば、一応は何かしらの手段を考えているに違いない。 それが態のよい言い訳にならないことを、新八はこっそりと祈る。ついでに、自分に支払われるはずの給料のことも。 思わずついた溜息を、しかし誰にも聞かれないうちに、万事屋内に妙な音楽が鳴り響いた。 たらりるたらりるら〜♪ その唐突な音に、銀時ですらジャンプから目を離して周囲を伺う。 ただ一人、だけが「あ、携帯! メールかな?」と携帯を―――どういうわけだか、着物の衿元から取り出した。 これには、新八よりも先に銀時が突っ込んでいた。 「! お前、携帯持ってんの!? つーか、どこに入れてんの!!?」 「え? うん、持ってるよ」 「うん、じゃねェ! なんで胸に携帯突っ込んでんの羨ましいだろーが携帯ぃぃぃ!!!」 「何言ってんだアンタはぁぁぁ!!!!」 結局、新八も銀時に対してツッコミを入れる羽目になっていた。 確かに、羨ましいのはわかる。 あの携帯がの胸の間にあったのかもしれないと思うと、何やら目眩まで起こしそうである。 が、新八は「い、いや、僕にはお通ちゃんが、お通ちゃんという人が……」と気を取り直す。 それでも、もはや何かを突っ込む気にもなれない。 そんな中、神楽だけは冷静だったのか。 「そんなところに携帯入れて、違和感ないアルか?」 「んー。お店で働いてた時、携帯は首から提げておくと失くさないよ、って言われて。でも、そのままプラプラ出してると邪魔だし、普段は着物の中に入れてるんだけど……慣れると、違和感ないよ?」 言われて見れば、が手にしている携帯についているのは、首に掛けるタイプのストラップ。 そしてそのストラップは、当然ながらの首に掛かっている。 実に当然の回答。 しかし男二人は、何か理不尽なものを感じずにはいられなかった。 「言いたいことはわかるんですけど……やっぱり何かが間違ってる気がするんですけど。僕は……」 「むしろ俺は、あの携帯になりてーんだけど」 「いや、アンタさっきから何言ってるんですか」 無機物を羨ましがったところで、何がどうなるわけでもない。 至極羨ましそうにの手の中の携帯を見つめる銀時と、それを至極呆れたように眺める新八。 そんな男たちを他所に、女二人は携帯を手にわいわいとやっている。 「私も携帯触ってみたいネ。いいアルか?」 「ちょっと待っててね。メール確認してから……あれ? 総ちゃんからだ」 ぼんやりと携帯を見つめるに、隣の神楽が「、どうしたアル?」とその顔を覗き込む。 はっと気付いたは「ううん、何でもないよ」と笑ったが。 それでもどこか、その笑顔には翳りがあった。 嬉しさと哀しさと、混在した複雑な表情を浮かべ、はまっすぐに銀時を見る。 「銀ちゃん。お仕事の依頼、だよ」 4← →6 すみません。岡田あーみん好きです。 ちなみに携帯の着メロは、「きみのためなら死ねる」より。つい先日ノーマルクリアしたもので…… ![]() |