飛騨方言は東京式アクセントなのですが、
東京式に於いては、第一拍と第二拍は必ず異なる、という
最重要規則があるそうです。つまりは、高低か低高しかない。
高々も低々も存在し得ないのです。
三拍品詞をあれこれ内省しますと明らかでしょう。
ところが、ふむ、世の中というものは例外のない規則はない。
やはり例外と考えざるを得ない文例があるようです。
飛騨方言における禁止の表現の方言文末詞のアクセント
に、かんこうせる、という動詞をあげました。
共通語では、観光する・刊行する、等々の意味がありましょう。
飛騨方言では、勘考する、つまり創意工夫する、という意味で用いられる事が
多いと思います。
この動詞終止形のアクセントは○●●●●●のようですが、
禁止表現として禁止の終助詞・な+さらに方言文末詞、という
文を作りますと、とにもかくにもアクセント核は禁止の終助詞・な、
に固定されます。ところがスタートが低ピッチで、
第二拍でややあがるのかもしれませんが、結局は核の部分まで、
どうにもこうにも下がりっぱなし、つまりは語頭が○○で
あろうかと記載せざるを得ないのです。
思うにやはりアクセントというものは、アクセント核以外の部分の
抑揚は微妙な所があり、
この微妙な部分は高低の悉無律では割り切れない
という事なのでしょう。
例えば、同窓会の席半ば無礼講と化した宴もたけなわ、
佐七がついうっかり初恋の花子さんの肩に(実は、やくと)手をかけたとします。
彼女は思わず、きゃあ、さわるなえな○●●▼○○、と叫ぶでしょう。
最強音は語頭・さ、です。がしかし実はアクセント核・な▼が最も高い音。
突然に発することばですから早口である事も書かずもがな。
さて、美術館の展示品に、手をふれないでください、と書いてあるとします。
ところが子供がついうっかり触ろうとします。
こんな時に館員のお姉さまがやさしくその子に言うことばは飛騨方言で
"ねえ坊やぁ、さわるなえな○○○▼○○"、でしょうね。
英語では、 Excuse me. But, please touch with your eyes only.
飛騨方言をご存じない方が、飛騨方言を優しい言い回しと感じたり、
飛騨方言を京阪式アクセントの言語と勘違いされる理由は、
実はこんな所にあるのでしょう。
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