大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

通す(他サ五(他動詞サ行五段))・通る(自ラ五(自動詞ラ行五段))

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僕:NHKアクセント辞典を見て思わず目が点、今夜の方言千一夜は他サ五(他動詞サ行五段)「とおす通」と自ラ五(自動詞ラ行五段)「とおる通」のアクセントについて。自他の対動詞。
君:共通語アクセントは両動詞とも頭高よね。
僕:うん、古語ではそれぞれ他サ四と自サ四、これも頭高だったのだろう。そしてこれが江戸語のアクセント、やがては近代語を経て現代語へ、つまりは頭高アクセントが引き継がれて東京語アクセントになったに違いない。
君:その根拠は?
僕:三省堂新明解アクセント辞典に金田一春彦先生が膨大な日本語アクセント則を記述しておられる。当然ながら古語動詞についても。簡単にひと言、アクセント核の移動は無く、口語動詞と同じアクセントの式が適応される。つまりは動詞アクセントで大切なのは語幹のアクセント。活用部分にアクセント核は無く、口語と文語を分けるのは活用部分だから、つまりは古語動詞のアクセントは口語動詞のアクセントと同じ。単なる言い換えになるが、千年経ても動詞のアクセントは変わらない。
君:なるほどね。それで飛騨方言のアクセントは?
僕:「とおす通」・「とおる通」共に明らかに中高アクセントだ。頭高ではない。飛騨方言とて活用は共通語と同じなので、文法は同じ。つまりは方言の言い回しを文字化すると共通語と飛騨方言は見分けがつかないが、聞くとアクセントの違いが明らか。
君:実は違いが明らかなのに、あなたはその事に昨日まで気づいていなかったのよね。
僕:その通り。
君:そして、それの理由があるでしょ。
僕:うん、あるある。二つあるね。ひとつは飛騨方言は東京式内輪アクセントなので半ばNHKアクセントに近い。断じて畿内アクセントではない。従って左七が話す飛騨方言はアクセントに関しては純東京式である、と思い込んでいた事。
君:ほほほ、その事を表す方言学の熟語があるわよね。
僕:「気づかないアクセント」だ。指摘されないと自分自身ではなかなか気づけないんだよ。しかも不惑に近い年齢ともなると最早、修正は不可能。
君:そうね。でもアナウンサー・声優等、声のお仕事でなければ気にする事もないのでは?
僕:そうだね。対面で話すことが仕事と言ってもいいが、44年も同じ仕事をしている。今更だな。
君:もう一点は?
僕:これはつい先ほど解消した。要は自他「通」のアクセントに関して今まで無関心・無頓着であった事。今の左七は興味深々だ。以上が前置き。
君:では本論ね。共通語アクセントと飛騨方言アクセントの違いは?
僕:他サ五「とおす通」だけで行こう。
NHK式 ト\ース・トーサ\ナイ・トーシマ\ス・ト\ーシ・ト\ーシテ・ト\ーセバ・トーソ\ー
飛騨方言 トオ\ス・トーサナ\イ・トオシマ\ス・トーシ\・トオ\シテ・トオ\セバ・トーソ\ー
君:なるほど、1モーラだけズレる感じね。
僕:左七自身はズレている事は全く意識していないんだよ。舌が勝手に動いているわけ。活用語尾「ない」にアクセント核があるのも他の如何なる動詞でも同様。
君:ほほほ、左七がこの事に気づいたきっかけがあるでしょ。
僕:その通り。昨晩のお話「とおし(=連続して、切れ目なく)」。うどん屋のおじいさんの一言、聞いた瞬間に気づいた。
君:気づいたのはNHKアクセントと飛騨のアクセントの違いについて、という事ね。
僕:そう。どんなところに方言の話題が潜んでいるかわからない。フィールドワークは極度の緊張を強いられる。ぶふっ
君:動詞連用形は副詞句になる、という日本語文法。ここが肝だったのよね。
僕:そう。副詞句どころか、そもそもが名詞になりやすい。共通語でも「なが\す・(台所)ながし\・(タクシーの)な\がし」とかね。同音異義語だからアクセントで弁別しているよね。
君:それにしても。飛騨方言は連用形「とおし」が極端なアクセントだったという訳ね。
僕:ふるさとの訛(なまり)なつかし 停車場の人ごみの中に そを聞きにゆく。
君:石川啄木、1910年、歌集『一握の砂』。上野駅ね。
僕:僕の場合はJR岐阜駅と言いたいところだが、用事で岐阜駅に立ち寄っても飛騨方言は聞いた事が無い。嗚呼
君:大丈夫、いい場所があるわよ。
僕:?
君:ユーチューブよ。ほほほ

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