尾根という言葉は実は共通語としては近代語であり、
古くからの中部山岳の方言である事を別稿・尾根に記載しました。
その成立の謎を少し紐解いてみましょう。
以下は金田一先生著の丸写しではなく、あくまでも佐七の
頭から出てきたものですが、内容が無い様、とおっしゃる方も若しや。
要は、尾も根も古語なのに何故、中世の中央で尾根という
単語が発生しなかったのでしょう。
考えるに、言語学のふたつの重要則、
最小語条件 ( 人は生来1モーラ語を禁止するという言語学仮説 )
短音長呼 ( 西日本に多く、例えば歯をハーと伸ばす事。長音短呼の逆 )
という事でしょうね。
つまりは、畿内方言では尾・根といっても、おお○▼・ねえ○▼、と
各々が二拍の尾高アクセントで発音されるので、四拍の癒合語など
生ずるべくもないと筆者は考えます。
一方、飛騨方言では、そもそも短音長呼が無く、ただしお尾▼・ね根▼、という一拍の名詞を嫌って、
つまりは、やはり最小語条件が働いて、二拍名詞おね○▼が
出来たという事なのでしょう。
また飛騨方言では、川が流れる所は谷、ちょろちょろと水が流れる所は沢、
また雨の日以外は枯れている沢の事を、さこ○▼、と使い分けます。
つまり、二拍名詞の対・おね○▼・さこ○▼、は隣地境界を
決めるのに必要な言葉、おねざかい○●▼○○・さこざかい○●▼○○、になります。
ですから、飛騨方言・尾根ができたのはいつの世でしょう。
古代でしょうね。万葉の時代でしょう。
生活に必要な言葉というものは古くからあるものです。
その一方、東京には尾根がない。東京から信州にはじめて登山に行った人達に
とっては、尾根という言葉は、生活の言葉ではなく、
レジャーの言葉なのでした。
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