大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
飛騨方言名詞・きんにょ |
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佐七:今日は女性のゲストをお迎えしました。麻奈さんです。 麻奈:始めまして。・・一応は、佐七さんと同じで飛騨出身です。 佐七:同郷の方ですから、説明なしでわかる点が多いのですが当サイトは全国ネットですから、私が適宜、説明を交えながらお話を進めましょう。では、宜しくお願いします。 麻奈:宜しくお願いします。 佐七:お恥ずかしいのですが、わたしが、やくとあくれて、 ビートルズの Yesterday を飛騨方言訳したら、あなたの目にとまって、メールをくださいました。Yesterday = きんの、というよりは、古くは、きんにょ、という事をご指摘くださいました。 麻奈:・・やくとあくれて、・・って、わざとふざけて、っていう飛騨方言でしたか。 佐七:いやあ!失礼しました。相手が飛騨のご出身かと思うと、ついつい飛騨方言がでてまうもんで。 麻奈:・・でてまう、・・って、はんなりとした関西弁なんですけど。わざとですか。 佐七:いやあ!失礼しました。あなたが飛騨のご出身かと思うと、ついつい・・でてしまう・・でした。でてまう、は飛騨方言ですよね。本題ですが、きんにょ、って全国で通じると思いますか。 麻奈:・・通じないでしようね。金魚のいい間違いに思われるかも知れませんね。 佐七:発音が似ていますからねえ。アクセントは違うのですけど。ところで、共通語・きのう・昨日、って何時ころからの言葉だと思いますか。 麻奈:さあ、日本語としては大変に重要な単語だから、・・ 結構、ふるい? 佐七:大正解です。古いんですよ。古語辞典を見ればわかる。きのふ、万葉集や古今集の文例がありますから。では、次の質問、きのう・昨日、という言葉はどのくらい新しいですか。 麻奈:さあ。でも・・現代人でも、きのう、と言いますから江戸時代くらいから、きのう、でしょうか。 佐七:ははは、実は・・、佐七にもよくわからないんですよ。ただし、明治の中期に発行された国語辞書・言海にはきのふ、という記載があります。 麻奈:えっ、明治時代までひょっとしたら ki.no.fu と発音していたのですか。 佐七:ははは、その可能性は少ないでしょうね。私の祖母の名前は、てふ、です。明治の生まれでした。読みは、ちょう・蝶、です。明治は言文不一致の時代なのです。 麻奈:じゃあ、明治時には飛騨でも、あるいは全国でもきのふ、の事を、きんにょう、と言っていたのでしょうか。 佐七:うーん、・・実はその可能性はありません。日葡辞書という超一級方言資料があります。安土桃山時代あたりの近畿方言をローマ字表記した資料です。Qino の記載があるのです。ですから、江戸時代あたりから、きのう、という言葉が日本語だったのでしょう。 麻奈:佐七さんて、・・資料をもとにおっしゃる事が力強いわ。・・まあ、よう調べなさったなあ。 佐七:ははは、僕ってぶっつけ本番得意。実は今、辞書広げながら原稿書いてるんですよ。いかに言文不一致とはいえ、江戸時代には、きのう、と言っていたのでしょうね。 麻奈:でしたら,飛騨方言の古い言い方・きんにょ、は、きのふ、が訛った言葉ですか。それともきのう、が訛った言葉ですか。 佐七:きのう、が答えです。間違いありません。きのう>きんにょ、という音韻変化が飛騨方言にあったのです。その前に、日本語では、きのふ>きのう、の音韻変化があった。平安中期ハ行転呼音の洗礼を受けて、きのぅう kin/no/wu、という音韻がまずできて、きのぅう>きのう、という音韻に変化したのでしょう。きのふ>きのぅう>きんにょ、という音韻変化は言語学的に、というか医学的に無理です。 麻奈:うーむ、なんだか難しい話になってきたので、いつもの佐七様らしく、簡単なしめくくりの話でお願いします。 佐七:おっと、そうこなくっちゃあ。飛騨方言で、きのう>きんにょ、と音韻変化してしまった理由をズバリ、お披露目しましょう。飛騨は浄土真宗の国、昔からです。農民が毎日となえていた浄土真宗・正信偈(しょうしんげ)です。その出だしそのものです。きみょう・むりょう・じゅにょうらい。この拗音の出だしの和讃の飛騨方言に与えた影響は計り知れないと私は考えます。これを佐七節と笑いたい人は笑え、私はおおまじめです。こういう発想は・・飛騨に生まれ育った人間でなくては無理でしょう。 きのう>きんにょ、と音韻変化した理由はついつい唱えてしまう浄土真宗和讃の影響です。 麻奈:うーむ、なんだか・・私も久しぶりに帰省したら皆で和讃をしたくなっちゃいました。ははは、楽しいわ。ジョンレノンと浄土真宗、ジョとじょ。なんだか通じるわ。 |
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