大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

めしのさい

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私:飛騨方言でご飯のおかずを「めしのさい」というのだけど。どう感じる?
君:方言らしい表現で、ユーモアが感じられて、平仮名の表記からは温かみも感じられるわよ。
私:それもそうなんだが、音韻学的にはどうかな。
君:「ごはんのおかず」で7モーラ、「めいのさい」で5モーラ、どちらも言いやすくて優劣つけがたいわね。
私:その通りだね。ただし、そこのところを敢えて点数化すると、どうなる。
君:五言絶句と七言律詩を比べようがないわよ。
私:ジップの法則 George Kingsley Zipf(1902-1950), American linguist・・よく使う言葉は短く、あまり使わない言葉は長い、という言語学でよく知られた法則によれば7モーラより5モーラのほうが方言として成立しやすい事になる。
君:短ければ短いほど良いというものでもないわよ。
私:その通り。最小語条件つまり、人は生来1モーラ語を禁止するという言語学仮説がある。例えば「き木」だが、人は無意識に「きぃ」と二拍で発音している。
君:つまりは最低が2モーラね。ならば「さい」でいいのかしら。
私:方言グッズなので購買層は飛騨方言を知らない方々だ。「さい」では意味不明に近いので、商品名としては如何なものか。短すぎる商品名だね。
君:「めしのさい」ならば飛騨以外の方々でも意味は自ずとわかりそうね。
私:その通り。食品に「めしのさい」と表記されていれば「暖かいご飯に乗せて食べれば美味しそうなおかず」である事は明らかだね。
君:アクセントはどうかしら。
私:ははは、NHKアクセント辞典には記載がないが、三省堂・新明解には「さい采○●」で平板の記載があり、「おさい御采○●●」平板の記載もあった。両語ともに飛騨方言のアクセントに同じ。従って「めしのさい」の飛騨方言アクセントはは平板○●●●●だ。
君:丸文字の平仮名表記もいいわね。
私:勿論だ。「飯の采」では読ませるのにも苦労するだろう。「めしのな」と呼ぶ人もいるんじゃないかな。
君:飛騨方言だけに「な」ではいけないのよね。
私:だめだね。飛騨方言としては意味が通らない。
君:「めしのおさい」はどうかしら。
私:おっ、いいね。上品な感じだ。「おこわのおさい」もいいかもしれない。
君:だめよ。「こはいひ強飯」は古語でも赤飯の意味の事もあるから。
私:別の言葉を考案するなら、やはり「まんまのおさい・7モーラ」だね。
君:「まんまのさい・6モーラ」「おまんまのおさい・8モーラ」はどうかしら。
私:駄目だと思う。
君:理由かあるのよね。
私:日本語は二拍を一塊、これの倍数、つまりは偶数モーラが話しやすいんだ。
君:ならいいじゃない。それに七五調って奇数モーラだわよ。
私:確かに。ただし、休拍を数えると七五調も偶数モーラになる。例えば「まつきけいこ松木恵子」は「き」と「け」の間に休拍があり、「こ」に続いて休拍がある。全体では八拍だ。ところが「まつのいえいすけ松乃井栄輔」には休拍が無く、やはりこれも八拍。
君私:つまりは「めしのさい」は「い」に続いてひとつの休拍があり六拍ね。
私:「まんまのさい」は平板で六拍も可能だが長く、「い」に続いてひとつの休拍を入れると7モーラになりアウト。
君:複合語らしい言葉にするには七拍としてアクセントを区切り、最後に休拍を入れ8拍で整える。
私:その通り。熟語らしい言葉にするには5拍として平板アクセントとし、最後に休拍を入れ6拍で整える。
君:「キリン・でらうま」が前者で「エビフライ」が後者ね。
私:「めしのさい」は後者だね。
君:「まんまの・おさい」は前者よね。
私:「そういうこと」だ。実は8拍。
君:「そうなのね」。実は6拍よね。

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