大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 心理学

「まわし」と「やわい」の違い

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僕:「準備」の意味で飛騨方言では「まわし」「やわい」の二語を使うが、明らかに使い分けはあるね。不肖・佐七辞書に既出だが(こことかここ)。
君:二千頁以上も書いて、どこに何を書いたか判らないでしょう。
僕:勿論。だからハードディスク原稿を全文検索ソフト SAVVY で確認しているんだよ。
君:なるほど。free soft ね。
僕:今回のテーマは違いだから、二語の微妙な違いについて議論しよう。
君:早い話が「まわし」は時に悪い意味で用いられるのに対して、「やわい」は決して悪い意味では使われない、この一点に尽きるのじゃないの。
僕:その通り。「やわい」は必ずいい意味で用いられるが、「まわし」は必ずしもいい意味では用いられない、と言いかえる事もできる。
君:例文がいいわよ。
僕:2020米国大統領選挙、共和党現職トランプ対民主党バイデン、二日目に激戦州を制するバイデン氏が俄然、優勢となり、数日後に決着する勢い。
君:つまりはバイデン氏は早くも勝利宣言の「やわい」。対するトランプ氏は現職落選の屈辱を避けるべく、選挙無効の法廷闘争に持ち込む「まわし」。
僕:いや、その例文を書く前にもう少し前提条件を足したほうがいいね。世界のマスコミか味方の余裕のバイデン氏、とか、悪あがきの大人げないトランプ氏とか。
君:つまりは善人は「やわい」をし、悪人は「まわし」をするとでも言えばいいのかしら。
僕:米国は裁判の国。裁判で買ったほうが正義と言われる国だ。だから共和党側からすれば、郵便投票の不確実性・違憲性には自信があり、バイデン側は郵便票の上乗せで早くも勝利宣言の「まわし」をして選挙結果を既成事実化しようとしているのであり、我々は最高裁判事構成も事前に整え、最後に正義を勝ち取るべく入念に「やわい」をしているのだ、という事になる。
君:どちらの陣営であれ、敗北宣言の「まわし」をする事は有り得ないわね。
僕:ああ、無いね。ましてや敗北宣言の「やわい」をする事は決して有り得ない。
君:両陣営とも己の勝利を信じて勝利宣言の「やわい」を着々と進めているのね。
僕:その通りだ。若しかして本当は敗北かもと薄々、感じながらも、なんとかあの手この手の方策で勝利宣言の準備をしているとすれば、それは勝利宣言の「まわし」だ。
君:敗北を認め、敗北宣言の原稿を推敲したりする事は何というのかしら。「まわし」も「やわい」も使えないのだから。
僕:えっ、そんな言葉もパッと思い出せないのかい。「またじ」だよ。平版アクセント。何がいやだといって、「雪またじ」ほど嫌なものは無いね。
君:ほほほ、そうだわ。雪かきの事ね。散らかった部屋のお片付けも「またじ」を使うわ。主婦は台所の「またじ」や、家庭ごみの「またじ」なんか、いやになっちゃうわ。
僕:「またじ」を良い意味で使う事は絶対にないね。
君:ええ、絶対に無いわね。
僕:僕も既に67歳、あと三年で不惑、気が付けば歳を重ねていた。要らないものはどんどん断捨離する事にしている。人生の「またじ」だ。また親が超高齢ともなると、あの「まわし」も必要になって来る。
君:老人ホームとか。
僕:親が喜んでくれるなら老人ホームの「やわい」というべきだろう。互助会などの事を「まわし」というんだよ。
君:なるほど、互助会との相談を喜ぶ親はいないわね。
僕:その反面、人生を振り返ってみると、己の結婚式の「やわい」、子供が生まれてお七夜とか、七五三とか、親戚が増えて正月の集まりとか、米国留学が決まって青春の総決算たる渡米の準備、一国一城の主・開業の準備、子供の結婚、孫の誕生とか、数限りない「やわい」が出来て、本当に素敵な人生だった。
君:あら、おめでとう。次いでだから毎晩、書いているこのサイトの原稿準備についてもお話ししてくださらないかしら。
僕:ああ、いいとも。何かひとつ書こうというテーマがあると、これが実に楽しい「やわい」になる。ネット情報を検索したり、各種辞書をあたったり、成書を斜め読みしたり等の「やわい」が出来ると、後は一気に書き上げるだけ。
君:ほほほ、でも毎日、キチンとネタが思い浮かぶ訳ではなさそう。そんな場合は一定の決まった「まわし」が必要なのかしら。
僕:ああ、そうだ。しかも時刻が深夜ともなると時々刻々と近づく就寝時刻を睨んでの「まわし」になるので、辛い作業と言えなくもない。
君:具体的には?
僕:幾つかの方言学用語をキーワードにネット検索をしまくる、とか、語数一万の土田吉左衛門著「飛騨のことば」を手あたり次第にページを繰るとか。それでなんとか凌いでいる。
君:時々、古典文法の事も書くじゃない。
僕:ああ、あれね。あれは実は幾つもの古語辞典の巻末資料をサアッと読み流すんだ。すると、へえ・これは知らなかったな、という知識が得られる。それを書いている。それだけの事。最近は大修館・日本語文法辞典を買い求めた。この辞典も手あたり次第にページを繰ると、次々と面白いネタが発掘できる。
君:つまりは、自分の頭からは何も出てこない。知識の切り売り。国語学に名を借りた雑学、ってところのようね。
僕:うーん、手厳しいな。でも本当にその通り。このサイトで得られる知識は雑学だ。
君:でも必ず飛騨方言がからんでいないといけないのよね。
僕:ああ、それだけは拘っている。今日のまとめだが、準備「やわい(良)」「まわし(悪)」に対して片づけ「またじ(面倒)」。
君:古文の意味を引きずっているわね。「やはす(やわらかにする・丸く収める)」「まはす(根回しする)」。
僕:英語なら「やわう work」「まわす labor」。
君:なるほどその通りね。浮き浮きと楽しく想像的に仕事をする事を work と言い、与えられた任務をいやいやながら行う事は labor 。
僕:このサイトの原稿を書くのは僕にとって work。
君:毎晩、いやい付き合わされる私は labor よ。ふう

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