大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
サ変動詞命令形「よ・ろ」 |
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私:別稿・上一段動詞命令形「よ・ろ」に書いた通りだが、京都と飛騨は「起きよ」、東京は「起きろ」だ。同様の東西対立はサ変動詞でも見られる。京都と飛騨は「せよ」で、東京は「しろ」、東西方言境界も上一段動詞に一致しているのだろうね。 君:なんだか平凡過ぎて、つまらないお話よね。 私:うーん、手厳しいね。それじゃあ、こんな言い方はどうだ。飛騨方言においては、なんと、サ変動詞は下一段化してしまい、しかも上一段動詞の東西対立と同じパターンになっている。 君:サ変の下一化って、一体どういう事かしら。聞いた事ないわよ。 私:そりゃそうだろ。つい先程、僕が勝手に考えた言葉だ。 君:ふざけないで、国語学の正しい知識が得られる内容でお願いね。出典の明記があると理想的だわ。 私:はいはい。手元の書、金田一春彦著「日本語方言の研究」東京堂出版初版の140頁あたりの内容紹介だ。「サ行動詞の転化」、つまりは方言におけるサ行動詞の活用についてだ。東京では「する・しない」と言うけれど、中部の名古屋はじめ飛騨などでは「せる・せん」と活用する。 君:なるほど、すべてエ段、つまりは下一化するのね。 私:飛騨では「せ(ぬ)/せよ/せる/せる/せりゃ/せよ」。つまり何の事は無い、飛騨方言にはサ変動詞は存在しない。飛騨方言に存在するのは「せる」他サ下一動詞という事。 君:然もサ変動詞においても否定の助動詞「ない・ぬ」に関しては、飛騨方言は京言葉と同じく「ぬ」を使うのよね。 私:その通り。否定の助動詞「ない・ぬ」+(上一段)動詞命令形「よ・ろ」=京都と飛騨のサ変という図式だ。 君:飛騨方言は文法が畿内方言と同じでアクセントが東京式と言われる所以なのよね。 私:飛騨の人間同士でサ変で話す時、間違って東京式、つまりは標準語、国語で話すと、なんだか東京かぶれのキザな奴というような目で見られてしまうんだ。 君:でも一点、男女の言葉の使い分けの問題があるわ。ほほほ 私:正にその通り。上記の議論は飛騨の男性の言葉遣いだね。あるいは母親が子供に対して使用可能だが、女性が身分関係が同等以上の男性に対して、つまりは妻が夫に対してのサ変命令形は未然形にて尊敬語「しないよ」。飛騨方言においては女性ではサ変動詞に命令形は存在しない。 君:勧誘「しなされよ」から「さい」が脱落した言い方ね。「な」にアクセント核がる事は書かずもがなね。 私:飛騨は日本の田舎に共通した文化だろうが、男尊女卑、保守的な風土だからね。 君:ところで飛騨はじめ西日本ではサ変の転化、具体的には下一段化の傾向があるとの事だけれど、関東では逆に上一段化の傾向があるのかしら。 私:とてもいい感をしているね。その通りだ。上記の成書には東京を除く関東各地で「しる・しれば」というように上一段化の傾向があるそうだ。 君:そして関東では否定の「ない・ぬ」は「ない」だから、東京「する・しない」を「しる・しない」と活用すると東国方言らしくなるのね。 私:その通り。 君:つまりウ音便+下一化が関西で、促音便+上一化が関東。 私:その通り。 君:そして促音便+下一化が飛騨という事ね。 私:その通りだが、もう少しばかり大胆に書いてもいいと思うよ。 君:・・わかったわ。動詞においては促音便+下一化はギア方言(岐阜・愛知)、形容詞ウ音便もギア方言。 私:その通りだ。岐阜・愛知において大半の文法規則は一致するが、該当しないのは唯一「だ・じゃ」だけと覚えておこう。 君:美濃・飛騨が「じゃ(や)」で、愛知が「だ」、「だもんで信長」と覚えればいいのね。 私:「やもんで美濃」「なんやさ飛騨」かな。 君:そして今日の方言キャッチコピーは「せる・せん・せよ飛騨」なのよね。 |
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