大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨方言におけるだしかんを用いた慣用表現

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飛騨方言・だしかん(= らちあかぬ)については、だちかんとの比較検討だしかんの語源に詳述していますが、本稿ではその用法をまとめます。 また以下の文章全てに当てはまりますが、
男性言葉 だしかんぞ。 だしかんのやぞ。 だしかんながい。 
両性言葉 だしかんぜな。だしかんのやぜな。だしかんさ。だしかんって!だしかん。
女性言葉 だしかんえな。だしかんのやよ。 だしかんながいな。  だしかんよ。
というように男女で使い分けをします。

動詞未然形+否定の助動詞・ぬ、の仮定形・ねば+だしかん
別稿飛騨方言における助動詞一覧:共通語との対比検討、に触れていますが、 ぬ、の仮定形・ねば、は飛騨方言では古くは、ねや、と発音され、現代に至り、仮定形・にゃ、になっているようです。 従って、
書かねばだめだ = 書かにゃだしかん
着ねばだめだ  = 着にゃだしかん
受けねばだめだ = 受けにゃだしかん
来ねばだめだ  = こにゃだしかん
せねばだめだ  = せにゃだしかん
となります。
動詞連用形+仮定を示す接続助詞・て+係助詞・は+だしかん
別稿係助詞・は、に触れていますが、飛騨方言では、や、なります。 仮定を示す接続助詞・て+係助詞・は、は古くは、てや、と発音され、現代に至り、 一部の動詞では、てゃ、になっているようです。 従って、
書いてはだめだ = 書いてゃだしかん
着てはだめだ  = 着てやだしかん(*)
受けてはだめだ = 受けてゃだしかん
来てはだめだ  = 来てやだしかん(*)
してはだめだ  = してやだしかん
となります。
動詞連用形+仮定を示す接続助詞・て+慣用句・まわにゃ+だしかん
慣用句部分ですが、しまわねば、が訛った言葉です。
しまわねば−>しまわねや 係助詞・や、が飛騨方言の言い回し
しまわねや−>まわねや し、の脱落
まわねや−>まわにゃ 飛騨方言特有の連母音融合、短呼化
従って、
書いてしまわねばだめだ = 書いてまわにゃだしかん
着てしまわねばだめだ  = 着てまわにゃだしかん(*)
受けてしまわねばだめだ = 受けてまわにゃだしかん
来てしまわねばだめだ  = きてまわにゃだしかん(*)
してしまわねばだめだ  = してまわにゃだしかん
となります。
動詞連用形+仮定を示す接続助詞・て+慣用句・まわんと+だしかん
慣用句部分ですが、しまわぬと、が訛った言葉です。
しまわぬと−>しまわんと 助動詞・ぬ、の撥音便
しまわんと−>まわんと し、の脱落
従って、
書いてしまわぬとだめだ = 書いてまわんとだしかん
着てしまわぬとだめだ  = 着てまわんとだしかん(*)
受けてしまわぬとだめだ = 受けてまわんとだしかん
来てしまわぬとだめだ  = きてまわんとだしかん(*)
してしまわぬとだめだ  = してまわんとだしかん
となります。
体言+係助詞・は+だしかん
別稿係助詞・は、に触れていますが、飛騨方言では、や、なります。 従って、例えば、これはだめだ = こりゃだしかん、となります。
体言+仮定を示す接続助詞・で+係助詞・は+だしかん
別稿係助詞・は、に触れていますが、飛騨方言では、や、なります。 従って、例えば、百円ではだめだ = 百円でゃだしかん、となります。
体言+仮定を示す接続助詞・で+打ち消しの助動詞・ない終止形+接続助詞・と+だしかん
従って、例えば、百円でないとだめだ = 百円でないとだしかん、となります。
体言+仮定を示す接続助詞・で+打ち消しの助動詞・ない仮定形+係助詞・は+だしかん
別稿係助詞・は、に触れていますが、飛騨方言では、や、なります。 従って、例えば、百円でなければだめだ = 百円でなけりゃだしかん、となります。
形容詞連用形+仮定を示す接続助詞・て+係助詞・は+だしかん
形容詞連用形は必ずイ音便になります。しかも例えば、うつくしく、は、うつくしゅう、あるいはむしろ、うつくしょう、と音便変化します。 係助詞・は、は、飛騨方言では、や ( ないし、ゃ ) 、になります。 従って、例えば、早くてはだめだ = はようてゃだしかん、となります。
形容詞連用形+形容詞・ない+接続助詞・と+だしかん
形容詞連用形は必ずイ音便になります。しかも例えば、はやく、は、はよう、あるいはなはだしくは、はよ、と音便変化します。 係助詞・は、は、飛騨方言では、や ( ないし、ゃ ) 、になります。 従って、例えば、早くないとだめだ = はよないとだしかん、となります。

(*)同一の発音ですので、会話の流れで判断するしかありません。

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