不肖佐七辞書に飛騨俚諺サ行変格動詞・せるについて少し触れました。
ところで、サ変動詞に限定しますが、未然形に接続する助動詞といえば、
意味・助動詞 未然 用法
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
使役・せる さ させる
否定・ない し しない
推量・よう し しよう
推量・まい し しまい
否定・ぬ せ せぬ
自発可能受身・られる せ せられる
使役・しめる せ せしめる
尊敬・られる せ せられる
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
以上、サ変動詞未然形の三種類(さ、し、せ)ですが、用法から明らかなように
後続助動詞が何かによってその種類が規定されます。
例えば、させる、は意味がありますが、しせる、せせる、では共に意味を成しません。
それどころか未然形・し+否定・ぬ、では、しぬ、という忌み言葉すら発生してしまいます。
ところが実は、驚くべき事に、この、未然形・し+否定・ぬ、という接続が実は飛騨方言にはあるのです。
勿論、そのままでは、死ぬ、という単語と同じになってしまいますので、
さらに他の品詞に接続して、しぬ、は撥音便・しん、として使用されるのです。
例文ですが、せんとだしかん、という言葉があります。せぬとらちあかぬ、という事で、意味は、しないとだめだ、という事になります。
未然形・せ+否定の助動詞・ぬ+格助詞・と+形容詞・だしかん、と分解出来ましょう。
この言葉をまた別の言い回しで、しんとだしかん
とも言うのです。
未然形・し+否定・ぬ、である事が明らかでしょう。
勿論、飛騨方言とて日本語です、しないとだしかん、という言い回しも当然ながら存在します。
筆者なりに推察しますに、もともとは飛騨方言も、由緒正しく、せんとだしかん、と、しないとだしかん、の二つが
使用されていたのでしょう。そして両者はハイブリッドに接続して、しんとだしかん、とも言われるようになったのでしょう。
このように飛騨方言においては撥音便の手法を用いて巧妙に日本語文法を無視して特異に接続する形態が存在する事は特筆すべき事でしょう。
尚、不肖佐七の内省においては、上記・未然形・し+否定・ぬ、以外の
特異な接続は飛騨方言にはありませんでした。
つまりは一言の結論・佐七の願いですが、例外中の例外の飛騨方言の言い回し・しぬ、よ語り継がれよ、死ぬな。