大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

ひつく・ひつける

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私:さあ、今夜こそ飛騨方言のお話だ。
君:昨日の話題、「二拍動詞の促音便」の続編ね。
私:その通り。こんなことに興味をいだくようになったのは、自他対「ぶつかる・ぶつける」を飛騨方言では「こつかる・こつける」と言う、これがきっかけだ。
君:接頭語「ぶつ」は他タ四「うつ打つ」の促音便という事にも偽果ついたからという事ね。
私:うん。要はそういう事。今夜の話題はひとつだけにしよう。話題は「ひ」。
君:共通語で「ひっつく・ひっつける」を何というか、という問題ね。
私:そう。飛騨では「ひつく・ひつける」だ。促音便では話さないな。
君:なるほどね。飛騨方言だけをみて、さっと語源を思い浮かべるのは難しいわね。
私:うん。でも、飛騨方言接頭語「ひ」は共通語接頭語「ひっ」、そしてその語源は他カ四「ひく引」の連用形「ひき」だ。何の事は無い、飛騨方言「ひつく・ひつける」は複合動詞「ひきつく・ひきつける」の音韻変化と言ってもいい。
君:でも大切な相違点があるわね。
私:まさにその通り。飛騨方言で「ひつける」と言えば、「接着させる・くっつける」の意味であり、敷衍した意味としては「男女の仲を急接近させる」とか「二人を結婚させる」などの意味になる。その一方、共通語「ひきつける」と言えば専ら「関心(興味)をひきつける」と言うような使い方がほとんどで、つまりは「相手の心をわしづかみにする」というような意味だね。
君:でも万有引力の法則によれば「地球の引力が月を引き付ける力になっている」というわよ。
私:いや、違う。飛騨方言「ひつく・ひつける」は実際に接着が完了した事を示すのであり、共通語「ひきつける」は、実は、接着が完了してはいない事を示している。
君:なるほどね。文法学的には、飛騨方言は瞬間動詞で共通語は継続動詞というわけね。
私:そう、動詞のモダリティは複雑だ。継続か瞬間か、動作動詞か変化動詞か、存在動詞か状態動詞か、アスペクト性、等々。
君:そうね。それに複合動詞をいきなり持ってきているけれど、それってよくないわよ。複合動詞か派生動詞か、という命題。つまりは両者は合成動詞だけれど、そもそもが単純動詞か合成動詞か、と言う問題もあるし。それにそもそもが動詞にはアスペクトがあるものとないものがあって、その複合動詞はアスペクトがあるのかないのか、あなたのおっしゃりたいのは「ひつく・ひつける」にはアスペクトが無くて、共通語「ひっつく・ひっつける」も同様にアスペクトが無いけれど、共通語「ひきつける」にはアスペクトがある、とおっしゃりたいのよ。ほほほ

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