大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム方言学「敬語編」 |
身内尊敬 |
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私:今までは国研とか、特に国研言語地図、文科省サイトばかりに目を向けていた。先ほどは、しまった、と思ってしまった。今後は文化庁についてもご紹介したい。こうやって僕の方言千一夜はいつまでも続く。 君:ほほほ、文化庁といえば敬語とか、外国人に教える日本語とか。差し詰め、敬語の指針のお話あたりかしら。 私:いや、それについては既に書いた。こことここ。今夜は身内尊敬の全国分布について語ろう。 君:・・今、見たけど文化庁サイトにそんな地図は公表されていないわよ。 私:うん。手元の一冊を基にお話しさせていただくね。井上史雄・木部暢子「はじめて学ぶ方言学」初版第一刷239頁。 君:飛騨地方は当然、身内尊敬よね。 私:ああ、勿論。図があり、身内尊敬地方は新潟県西半分、北陸三県全域、岐阜県全域、滋賀・京都・大阪・奈良・兵庫・岡山一部。鳥取と島根の一部。以上だ。 君:ワオ、日本海側と西日本の傾向ね。 私:まさにその通り。逆に言えば、北海道・東北・関東・長野・静岡・愛知・三重県大半を含む紀伊半島全体・四国・九州には身内尊敬が無い。 君:江戸っ子は「俺の親父は」というわね。名古屋もそうなのね。 私:うん、そんな感じ。家内の親戚の大半が名古屋だが、皆が「親父」と言っているね。 君:飛騨方言は? 私:他人に対しても「おらんちのとっつぁまぁ」ってな感じ。 君:西日本優位の身内尊敬表現という事で、東西対立がありそうという事でいいのかしら。 私:うん。井上先生はそれを「中世的身内敬語」の名残りと表現しておみえだ。「おじいちゃん、おらはらしまへん」。 君:飛騨方言なら「おらんどごのじさま」になるのよね。 私:歴史的には中世の貴族社会から広がった敬語らしいが。飛騨のような田舎は保守的・封建的。従って僕は先ほどまでは、このような田舎に特有な文化風土により身内敬語が残っているのかと思っていたが、どうやら勘違いらしい。東北・四国・九州には身内敬語は無い。それともう一点、敬語が一切存在しない地方が西日本にあるそうだ。 君:どこ? 私:紀伊半島海岸部。こちらの地方は伝統的に社会身分の違いが小さく、人間は皆が平等という思想が広く行き渡っていて、それが言葉遣いに如実にあらわれている。つまりは人はみな平等なので敬語は要らない、という発想になるそうだ。当然ながら身内敬語も無い。 君:という事は、紀伊半島の人々の言葉遣いが多少、荒々しく感ぜられても気にする事はないのね。 私:要はそういう事。悪気があって敬語を省略しておられるわけではないようだね。 君:国語教育では徹底的に身内敬語を排除しているわ。 私:まずは正しい日本語のマスター、という事で、悪い事ではないね。それに少年左七にとっては蜜の味。 君:どういう事。 私:よそ様に身内敬語無しで話すと、言葉遣いが一人前、という感覚が生まれ、子供心なりになんだが自分が大人びているように感じられて嬉しいんだよ。 君:ほほほ、赤の他人様には、という事でしょ。少年左七は叔父や叔母にはいやがおうにも身内尊敬を使うわね。ほほほ |
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