大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

母音調和

戻る

私:多少なりとも飛騨方言にも言及しながら日本語のディープなお話に移ろう。
君:という事で表題ね。早速に例題でお願いね。
私:うん、では。山、高、川、浅、の単語に共通するものと言えば?
君:二拍。
私:正解。昨日だったか、日本語の最小語条件というテーマでお話しした。他には?
君:和語。
私:正解。素敵な答え。他には?
君:うーん。
私:今夜の話題。実はもうひとつ、とても大切な答えがあった。母音が「ア」。ついでだが「やま、たかからば、かは、あさからず」の例文では、なんと最後の「ず」では「ウ」の母音になるが、それ以外は全て「ア」の母音。これに関して、ABC順の英語辞書で気づく事は?
君:Aで始まる単語がやたらと多いわね。
私:そう。日本人も英米人も母音の「ア」は大好きなようだ。和語の続きをやろう。頭、鼻、腹。これも母音は「ア」。日本語の母音は5個だが、それでも最多は名古屋方言で8個、最小は琉球方言で3だが、わかり易いので5でお話をするが、二拍の言葉となると母音の組み合わせは25になるし、三拍ともなると125になるが、実際は今日の例のように「ア」の連続という事がほとんどで、母音の組み合わせパターンと言っても、ごく限られているんだ。これが母音調和。
君:なるほど、ではおしまい。
私:ではなくて上代特殊仮名遣いに話を変えよう。日本語の最も古い音韻と言えば、それを記載した書物。日本書紀・古事記・万葉集。当時の漢字で日本語の音韻を表記した。古代の日本語の音韻は相当に複雑だった。最初に気づいたのが本居宣長。以下に示す上代特殊仮名遣いに気づいたのが橋本進吉。古代はハ行が無く、パ行だった事に気づいたのが上田万年。という事で天才である彼等によって奈良時代は以下のような音韻表である事が判明した。1,2ではなく甲類・乙類と表記するのが普通。
aiueo
kaki1ki2kuke1e2ko1ko2
gagi1gi2guge1ge2go1go2
sasisuseso1so2
zazizuzezo1zo2
tatituteto1to2
dadidudedo1do2
naninuneno1no2
papi1pi2pupe1pe2po
babi1bi2bube1be2bo
mami1mi2mume1me2mo1mo2
ya yuyeyo1yo2
rarirurero1ro2
wawi wewo

君:この複雑な音韻表が現代語では、ややすっきりしたのね。
私:しかも実は奈良時代には上代特殊仮名遣いがあるだけではなく、母音調和がある事も発見された。
君:簡単にひと言で説明をお願いね。ほとんど「ア」の母音でした、とか。
私:そこまで単純ではなかったが、実は★母音には三種類の属性(男性(a,u,o)、女性(o)、中性(i))があり、★同じ性の母音連続は有効な日本語、また中性の母音は男性母音にも女性母音にも付く事ができる、という簡単な理屈で成り立っている事が発見された。
君:驚くべき簡単な仕組み、というか母音パターン少なすぎという事ね。具体例は?
私:はる(au)、なつ(au)、あき(ai)、ふゆ(uu)、こころ(ooo)など。全て和語だ。現代語として生き延びている。
君:なるほどね。
私:これで締めくくりにしよう。日本の元祖の方言と言えば?
君:ほほほ、飛騨方言ね。東大寺諷誦文稿よね。
私:そう、日本の元祖方言が飛騨方言だ。飛騨工の人達の言葉は奈良の都の人達には大変に聞きづらく、小鳥のさえずりのようであったという。つまりは?
君:当時の飛騨方言の音韻体系は上代特殊仮名遣い+母音調和の奈良の都の音韻体系より更に複雑だった、という事ね。
私:完全正解だ。何も付け足す事は無い。
君:飛騨方言いのちの左七のおバカさん。ほほほ

ページ先頭に戻る