大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
イタドリ(虎杖) |
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私:柳田國男は著書・蝸牛考の東北と西南との章において方言学上、注目すべき語彙として「サスガラ」を紹介している事を書いた。 君:聞いた事のない草木の名前ね。方言なのね。 私:そうだ。さて、僕も方言学を学んで久しいがいつもつまみかじり、「サスガラ」という言葉は同章を書いた時に初めて知った。それ以前の問題として蝸牛考本文に出てくる虎杖という漢語を何と読んでよいのか知らなかった。 君:正直ね。 私:文盲ではいけないと思って先ほどは調べたんだ。「イタドリ」だ。こうなればしめたもの、八坂書房・日本植物方言集成にあたった。 君:それで「いたどり虎杖」の方言量が多いのにびっくりしたのね。 私:ああ、勿論。ざっと三百以上かな。十ページに渡って記載されていた。おそらくは方言量の多い草木としては度忘れ、確か240程の方言量のトウモロコシを抜いて、「イタドリ」が草木の部門のみならず、日本語の方言の中で方言量がダントツで一位という事になるのだろう。 君:八坂書房・日本植物方言集成でトウモロコシは何ページなの? 私:当然の質問だね。5ページだった。つまりは「イタドリ」の半分。 君:つまりは「イタドリ」の方言量は少なく見積もって300という事ね。 私:「少なく」は正確ではない。「極めて控えめに見積もって」という事だ。 君:そうね。そりゃあ、感激するわよね。 私:感激なんてもんじゃない。こういうのを僕はいつも「方言の神様と握手が出来た」と表現しているんだよ。 君:ほほほ、大好きな言葉ね。柳田先生が「サスガラ」を見出しにお使いになるという事は、「サスガラ」及びそれに近い音韻は結構、全国各地の方言になっているのかしら。 私:ははは、逆だった。秋田・由利(現在は由利本荘市)のみ。他には秋田市に「サス」がある程度。つまりは「サスガラ」はピンポイントで由利町の方言なんだ。 君:でも柳田先生は九州にも「サスガラ」に近い音韻を発見なさったのでしょ。 私:ああ、そうだ。本文には阿蘇・豊後・日向に「サド・サドガラ」があると一言、お書きになっているだけ。 君:秋田・由利の「サスガラ」と九州の「サドガラ」は同根だとお気づきになったのね。 私:ああ、そうだ。ただし「方言量」を本書で提唱なさった先生が肝心の「イタドリ」の方言量に言及しておられんのだ。 君:ほほほ、蝸牛考の再発見という事ね。柳田先生がお気づきにならなかった「イタドリ」の方言量に、あなたが先ほど気づいたという事。 私:その通り。日本植物方言集成は2001年初版。定価一万六千円だったが、買っていてよかったとしみじみ思う。八坂書房さんにはこの場をお借りして貴重な出版を感謝したい。 君:でもマニアックな世界よね。 私:方言マニアのどこがいけないのか。これは世の中を明るくする話題だ。 君:つまらないとお考えの人も多分、いらっしゃるわよ。 私:僕はつまらなくない。ついでに土田辞書・ひだの言葉をひきまくった。 君:ほほほ、いくつか見つかったのね。 私:イッタンダラケ、イタドレ、イタンドリ、イッタンド、イッタンドリ、イッタンドレ、スカンポウ。飛騨方言でも方言量が7か。ふう 君:ほほほ50都道府県で350個になるわよ。ぴったりじゃないの。 私:お見事。その通りかも。当たらずと言えども遠からず。ついでながら、ははは、角川古語大辞典全五巻も調べたぜ。 君:ふふふ、語源ね。 私:ああ、古くは薬用に供し、「いたみどり痛取」からとの説が有力。文例は新撰字鏡、枕154、閑吟2。古名、つまり和語としては「たぢひ」。ただしこの和語は平安では既に死語。ところが八坂書房には「タチヒ」京都、の記載がある。他には「タチポッポ」島根・簸川(ひかわ)。平安時代に既に死語だった言葉が島根県の斐川方言で生きていた。これって凄くない!! 君:ほほほ、そうよね。ところで新撰字鏡は平安時代に編纂された漢和辞典ね。虎の杖の意味は? 私:軽くて丈夫な茎が杖に使われ、茎の虎斑模様から「虎杖(こじょう)」とよばれた・・とのネット記事がある。イタドリについては、あれこれ気づいた事があるが残念、十二時が近い。 君:今日の事を柳田先生がお知りになったらどんなにお喜びの事でしょう。生まれた時代が違っていた。お手紙が書けない事こそ本当に残念ね。さてさて、シンデレラボーイ様、今日も深夜まで遊びすぎよ。さあ、馬車へ。 |
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