大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨方言における助詞・が、の鼻濁音

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飛騨方言では活用助詞のカ行の音が濁音化しやすく、 しかも鼻濁音にならないことを別稿 飛騨方言における動詞、形容詞等のガ行濁音化現象 にのべていますが、 実際には、助詞、助動詞などにおいては、 共通語においてはガ行の鼻濁音が正しいというテーゼに引きつられて、 飛騨方言でも結構、助詞、助動詞のガ行の鼻濁音が使用されているようです。

議論を簡単にするために格助詞・が、格助詞・から、 終助詞・か、並立助詞・か、など、か、の音についてのみ論述しましょう。 表記は全角文字、がぎぐげご、としますが、 鼻濁音のある音は、nga ngi ngu nge ngo 、破裂音の濁音は、ga gi gu ge go 、と ローマ字表記注を必ず添えるものとします。 例 小が(nga)っこう前のが(ga)っこう(学校)前バス停。

係助詞・か
飛騨方言では鼻濁音になりません。 例えば、幾夜か(ka)すぎてしまった、という共通語文ですが、 飛騨方言では、幾夜が(ga)すぎてまった、となります。 若し鼻濁音で、幾夜が(nga)、と発音しますと、共通語の格助詞・が、 の意味になってしまうためです。
終助詞・か(軽い疑問)
例えば、 おうそうか、 という共通語文ですが、 飛騨方言では、 おうそうが(ga)、が一般的でしょう。 飛騨方言では決して、 おうそうが(nga)、とは言いません。 ところが、 おうそうかな、の共通語文に呼応して、おうそうが(nga)な、そりゃあ、えが(ga)ったなが(nga)いな ( = ああそうですか、それはよかったですね) 、 と鼻濁音を用いても飛騨方言のセンスに合います。 否むしろ、おうそうが(nga)な、そりゃあ、えが(ga)ったなが(nga)いな、 というように、 飛騨方言の終助詞・ながいな、をも鼻濁音の発音で話しても飛騨方言のセンスにあいます。 えがった、は、よかった、の訛りであり、鼻濁音は不可です。
終助詞・か(反語)
例えば、そんな馬鹿なことがあるか!、 ということばを飛騨方言に変換しますと、 そんな馬鹿なこたぁある(ga)が!、となります。 鼻濁音には決してなりません。 若しここで鼻濁音で発声してしまいますと、 共通語の接続助詞・が(nga)、の意味になってしまうのです。 つまり、そんな馬鹿な事があるのだが(nga)!、という意味です。
並立助詞・か
例えば、AかBか、を飛騨方言に変換しますと 必ず、Aが(ga)Bが(ga)、と発音します。 並立助詞・が、は決して鼻濁音にはなりません。 理由は簡単です。名詞など句に接続するのが並立助詞ですから、 若し鼻濁音にしますと、共通語の格助詞・が(nga)、と 区別がつかなくなるためです。 例えば、 Aがよいか、Bがよいか、はっきりしなさい、 という文を飛騨方言に変換しますと、 Aが(nga)ええが(ga)、Bが(nga)ええが(ga)、はっきりせよ、 という文になります。 つまり鼻濁音が格助詞、濁音が終助詞・が、です。
結語ですが、飛騨方言においても意味の混乱が生じない限りは、活用品詞、助詞において 鼻濁音が使用されます。上記はほんの一例です。 さて鼻濁音がない地域もあるやと理解はしておりますが、 もとよりいたずらに読者を混乱させるのが筆者の意図ではありません。 がしかし、飛騨方言では多くの活用品詞、助詞が濁音化しますので 鼻濁音の使用が実はことのほか奥深く、 鼻濁音の理解なくしては飛騨方言の理解は困難であると筆者なりに考えます。

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