大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 方言学

工藤真由美・大阪大学名誉教授

戻る

私:趣味で方言学をかじっているが、人名が気になる。
君:工藤真由美先生は大変に有名なお方よ。
私:うん。覚えのある名前なので当サイトを検索したらテンス・継続相にあった。
君:断片的な書き方はよくないわ。
私:その通り。今は蔵書も増えて、例えば手元に岩波書店のシリーズ方言学がある。巻2は方言の文法でその第三章アスペクト・テンスが工藤先生の分担執筆なので業績の一端に触れる事が出来た。
君:それで本日の方言千一夜は月旦評なのね。
私:そう。
君:つまりは。
私:先ほど来、手元の資料やネット資料をあれこれ調べたが日本の方言学におけるアスペクト・テンス論が出てくるのは戦後で、出版物と言えば工藤先生の著書に集約される。
君:つまりは。
私:判り易くご紹介すると工藤先生はアスペクトの女王。工藤の前にアスペクト無し。そして工藤の後ろにもアスペクト無し。
君:人文科学というものはそういうものなのか、とお気づきになったのね。
私:自然科学も同じだろう。科学というものは人間そのもの。
君:今夜の方言千一夜物語は、アスペクトについてこんなに詳しい事までわかっちゃいました、という記事ではないのよね。
私:うん。アスペクトそのものにはついては触れない。諸説あり、知識が増大している分野、とでも書いておこう。工藤先生のご略歴は愛媛県宇和島生まれ、津田塾卒、東大大学院、横国助教授、阪大教授、退官。2014年『現代日本語ムード・テンス・アスペクト論』で新村出賞受賞。著書はアスペクトを中心に多数。面白い論文もある。
君:面白いとは。
私:アスペクトと敬語--岐阜県高山方言の場合、工藤真由美 , 清水由美、阪大日本語研究 (15), 1-12, 2003-02。
君:なるほどね。
私:先生は片っ端から日本方言のアスペクトをお調べになった。
君:清水由美ちゃんと繋がりがあったのよね。
私:清水さんは東外大、茶大大学院、千葉大だったかね。つまりは東京でお二人はしょっちゅうお会いになっていた可能性が高い。
君:それは有り得るわね。学会も同じでしょうし。
私:それにね、清水さんの最近の書・中公文庫「日本語びいき」の71頁に英語の現在進行形のコラムが書かれていて、その時は「へえ、彼女ってアスペクトに興味を持っているのか」と思ったんだよ。何の事は無い、阪大日本語研究。工藤先生とつるんでいらっしゃったという事だ。
君:全国の皆様にもう少し判り易くお話しないと。
私:清水由美君は斐太高校の五年後輩。生まれも育ちも高山。工藤先生と清水先生のお二人は強烈な同類項と言うべきだろう。
君:つまりは。
私:工藤先生は宇和島、清水先生は高山、共に田舎の出身。二人とも英語の研究者。そしてお二人とも英語を卒業して日本語の世界に原点復帰。女二人、気は合っていたはずだ。
君:確かにね。清水さん、研究社の英和辞典の編集にも参加しているわよね。
私:うん。だから一つ判った事がある。英語の学者さんは英語の文法語 aspect and tense については邦訳したくないんだね。というかそれまでの国語学・方言学に英語の文法を応用したという事なんだろうかね。岩波書店のシリーズ方言学では Comrie, B.(1976), Aspect. Cambridge University Press の引用文献が一番古い。意味、わかるよね。
君:英語の文法においてもアスペクトは新しい概念で、現在、盛んに論文・成書などが出版されているという事かしら。
私:その通り。アスペクト論で言うところの継続相というわけだ。がはは
君:ネットをチラチラ、のぞき見趣味的ね。
私:ひどいな。まあ、何とでも言え。夕飯後の寝る前の一時間ほどを僕はいつも方言の時間に割いて、あれこれ学んでいる。
君:飛騨方言「マナビョール」ね。ほほほ
私:せっかくだから古文で行こう。古典の世界にも実はアスペクトがあった。完成相として非過去は「つ・ぬ」そして過去形は「てき・にき」という事で、非過去・過去というテンス表現まで存在した。もうひとつの系統が非過去は「たり・り」そして過去形は「たりき・りき」、つまりはこれまたテンスが存在する。ちょっとした発見だね。昨日までの僕は「なり・たり」の区別しか頭になかったが、今日からはアスペクト表現の「たり」だ。形動タリ・形動ナリ 飛騨方言におけるナリ活用とタリ活用一千年の歴史 等も参考までに。
君:うーん、なんだか危なっかしくて聞いていられないわ。

ページ先頭に戻る