飛騨方言では蚕を敬う気持ちで、おかいこさま、といいますが、
飛騨の養蚕の歴史といえば昔から盛んで古来からの事でしょうか。
戦後も続き、さて大西村では今は見る事がなくなりました。
飛騨方言では名詞にさま・様の敬称をつけますが、
別稿・あんたさま、
ほんこさま
などもご参考にどうぞ。ですから、かいこを敬って
かいこさま、になりますが、これでも尚かつ十分には
敬っていないという事で、おかいこさま、となるわけです。
農家の方々のかいこに対する思い入れが計り知れようというものです。
折角です、かいこの語源ですが、吉田金彦編著語源辞典の丸写し、
飼い子、の字を当てて家の中で大事に飼う子供のようにちいさな生き物、
だそうな。
古くは万葉集2495・たらちねの母がかふこのまゆごもり、の句があります。
全国の方言で、かいこ、は、おこさま・ぼこさま、等々やはり敬う言葉を
用いる地方が少なからずあります。後はあなたがお調べあれ。
しかしながら哀れおかいこさまよ、繭となれば後は売られる身、
女工哀史・ああ野麦峠の映画を思い出します。封切られてしばらく
当時私が住んでいた愛知県のある町の映画館でも上映されていました。
独身の私でしたが、なにせ郷土飛騨が舞台の映画ですから誰を誘うともなく
出かけてみました。映画の場面では繭の釜茹で、いたしかたのない事ですが、
はかない命とて所詮は人に養われたものですから、そして突然ですが、
ある工女がやにわにひとつのゆでた繭を取り出し、それを割り、おかいこさまを
食べたのです。身を削って働いた工女さんたちですが、
工場の監督者の目を盗んで食べたのはあまりのひもじさの所以である事は勿論です。
私はあの映画の光景がいまだに忘れられません。
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